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魔女は真面目なお仕事です!  作者: 黒辺あゆみ
第五章 ゾンビはお呼びじゃない!
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35話 ゾンビ退治の方法

ゾンビ軍団が迫っている。

 その衝撃からこの場の五人の中で最も早く立ち直ったのは、オーレルだった。

「お前たち、すぐに村まで走れ! まずは住人の避難、そして砦へ早馬を出せ!」

「「「了解!」」」

オーレルに木の上から指示を受けた三人組は、意外にしっかりとした返事を返して村へ走り出した。

 愚痴っていても騎士、こういった時には頼もしい。

 ――いや待て、単に早く逃げ出したかっただけじゃない?

 悪口を言われたせいで、彼らをイマイチ信用できないヒカリだった。


 次にオーレルが、木の幹にへばりついているヒカリを見る。

「ヒカリ、お前も早く逃げろ」

そう言われても、逃げるためにはまずここから降りねばならないわけで。

 一人で登れなかったヒカリが一人で降りれるわけがない時点で、「今すぐ逃げる」は無理そうである。

「そう言うオーレルは逃げないの?」

ヒカリは降りれないのを悟られたくなくて、未だゾンビ軍団をじっと見ているオーレルに逆に尋ねる。

 すると相手は「フン」と鼻を鳴らした。

「あの速度だ、逃げるには十分猶予がある。それよりも敵の情報収集が優先だ」


「なるほど」

確かにゾンビ軍団の進行速度はかなり遅い。

 走るのに自信があるなら、逃げるのはそう難しくない。それに情報収集も大事だ。

 ゾンビ軍団はその名の通りに死体が動いているのか、はたまた生きた人間か。

 それによって取る手段が変わってくる。

 あれが本当にゾンビなら、いっそ油でも撒いて燃やしてしまえばいい。

 しかし万が一ちょっとヨレただけの生きている人間なら、そんな非人道的なことはできない。


 ――師匠にゾンビゴーレムについて、もっと聞いておけばよかった!

 あの時は忌避感が強すぎて、それ以上話題にしたくなかったのだ。

 だが今はそんな後悔をしている暇はない。

 「むーん」とヒカリが頭を悩ませてゾンビ対策を考えていると。

「あれは、もしかして魔物か?」

じっとゾンビ軍団を観察していたオーレルが、ボソリと呟いた。

 魔物とは、ヒカリの初めて聞く言葉である。

「魔物って、魔獣じゃなくて?」

ヒカリが問うと、オーレルは説明を始めた。

「俺は見たことないが、聞いたことがある。死んでいるはずの魔獣が、どういうわけか動いて襲ってくることがあるという。俺たちはその現象を魔物と呼んでいる」


「死んだ魔獣が動く、ねぇ」

それはおそらく、魔力の道の上に放置された魔獣の死体に魔力が集まり、おかしな風に作用したのだろう。

 こういった現象は、実は薬草にも見られる。

 魔力を集めすぎた薬草が、ある時日当たりのいい場所を求めて歩いて旅立つのだ。

 ヒカリが師匠の薬草畑で薬草が歩き出す姿を見た時、「おばけー!」と泣き叫んで逃げたのはそう古い記憶ではない。

 魔力の道とは、時に愉快な生物を生み出してしまうミステリースポットなのだった。


 それはともかくとして。

 オーレルの言う魔物というのは、恐らくゾンビゴーレムと近い存在だろう。

 違いは自然発生か人為的かだけだ。

「アレがその魔物だとしてさぁ、どうやって退治するのよ?」

ヒカリが尋ねると、オーレルが難しい顔をした。

「粉々にして燃やすのが確実だと言われている。半端に攻撃したところで、魔物は身体が欠けても動き続け、完全に朽ち果てるまで止まらないそうだ」

なんと、魔物は随分しぶといものらしい。


 ゾンビ対策を魔物基準でやるとして、改めてヒカリは迫りくるゾンビ軍団を見る。

「……一体や二体なら、そのやり方でいいんだろうけどさぁ」

河の向こうにひしめき合うゾンビ軍団は、パッと見に立派な軍隊並みの数である。

 対して砦の主力武器は剣と弓。

 その武装であれらをすべて粉々にするというのは、ちょっと無理なのではなかろうか。

 それに後ろに増援ゾンビが控えている可能性だってあるわけで。

 ――ハッキリ言って無茶だよね。

 だがオーレルにもそんなことくらいわかっているようで。


「しかし方法はそれしかない。なんとか住民の被害を抑えるためにも、早く行動しなければ」

オーレルが無謀を承知の上の決意を告げる。

 その逃げずに戦う精神は、ヒカリだって称賛したいところだが……

 ――努力と根性でどうにかなるなら、世話ないわ。

 剣と弓を武器にゾンビ軍団に突撃するのは、命を粗末にするのと同意だ。

 なにせゾンビは疲労しない点で、人間よりも有利だ。

 疲れて動きを止めた所をゾンビに囲まれてタコ殴りにされては、肉体的にも精神的にもたまったものでない。


 それにゾンビ軍団が形成された根本原因を正さないと、同じことの繰り返しで砦の戦力が疲弊する未来が見える。

 まともにぶつかるのは良い手ではない。

 ――だとすると、今できることはなに?

 考えたヒカリに閃いた結論は。

「……足止め、とか?」

先程オーレルも言っていた通り、ゾンビ軍団の動きは遅いし、武装も剣が主で他に強力な攻撃力を持っているようではない。

 単にただひたすらウザいだけだ。

 なので砦側に、村の住人を逃がして準備する時間を十分に稼がせてやれば、無策のまま村人を巻き込んだ消耗戦に突入するのを防げるだろう。

 それこそ、ゾンビ一体を捕まえて本当に魔物かを確かめた後、油を撒いて焼いてしまえばいい。

 ヒカリならば、その時間稼ぎが加納だ。ただ問題は、「魔法を使えば」という条件が付くことだが。

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