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魔女は真面目なお仕事です!  作者: 黒辺あゆみ
第三章 薬草探してえんやこら

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23話 謝礼金でウハウハ

薬草の群生地を見つけたものの、ではここをどうするかが問題になった。

「今の薬屋に『ここを使いなよ』って言ってさぁ、他の人に秘密にされたら同じことを繰り返さない?」

群生地の独占による弊害で情報が失われることを危惧したのである。

「……そうだな」

オーレルも難しい顔をした。

 今回の件で現在の薬の供給の危うさを思い知ったらしい。


「とりあえず、砦に帰って上司に報告がてら相談するから、ここの事を口外しないように」

「わかったわ」

オーレルの言葉に、ヒカリは大人しく頷く。

 ここに出入りできるのは当分先になるかもしれない。

 ――今のうちに採れるだけ採っておこう!

 そうとなれば、ヒカリはせっせと掘り返した。

 仕舞いにはオーレルまで手伝わせて。

 借りれるものは猫の手でもオーレルの手でもなんでも借りるのだ。


「これでしばらく困らない!」

全身を土と草まみれにしたヒカリは、今日の収穫物を満足げに眺める。

「……発見したのはお前だから、このくらいはいいか」

付き合わされたオーレルは疲れた表情で言った。

 採りまくったおかげで持ち帰るのに苦労したのだが、ヒカリは後悔していない。

 そして、街に再度入る時、入国審査をちゃんとやった。

 これで脱密入国者である。


それから数日後、オーレルがヒカリの店に報告にやって来た。

「結局薬草の群生地は砦が管理し、薬屋に薬の作成を委託する形になった。情報が開かれた代わりに、群生地が外部の者に荒らされないよう、砦が監視する。このことにあの薬屋も同意した」

「へー、よかったわね。これで薬不足が解決するじゃない」

ヒカリはオーレルを見ずにすり鉢でゴリゴリとしながら返事をする。

 オーレルはおざなりに相手をされてムッとしつつも気になるのか、こちらの手元を覗いてきた。


「お前が作業しているのを見るのは初めてだが、それはなんの粉だ?」

「うん? コレだけど」

カウンターの傍らに置いてあったザルから手に取ったのは、あの時オーレルと採った漢方の人参もどきである。


 オーレルが正体がわかった途端、ギョッとしたように距離をとる。

「あの毒草か!?」

「だから、根っこだってば」

ヒカリは手のひらで転がしながら訂正する。

 ちなみに毒草と言われる草を食べると、お腹を下して猛烈な下痢に襲われるそうだ。

 この怖がり方を見ると、被害にあったことがあるのかもしれない。

 ――聞くのも可哀想だし、ここはスルーしてやろう。


 あれからこの人参もどきを色々試したところ、味も風味もまさにそのままだった。

 薬に使うためにスライスして乾燥させたものを、こうして粉にしている。

 ちなみにこの作業は、師匠ならば魔法でちょちょいのチョイでできるのだが、未熟なヒカリがやると素材が爆散する。

 なのでこうして手作業なのだ。


 作業に戻ってゴリゴリしながら、ヒカリはふと思いつく。

「そうだ、お試しで飲んでみる?」

「……なにをだ」

警戒しているオーレルに構わず、ヒカリは粉末を少量カップに入れ、それにお湯を注ぐ。

「はい、どーぞ」

ヒカリがカップを差し出すと、まだ遠くにいるオーレルが警戒した目でそれを見た。

「……本当に毒はないのか?」

「ないって言ってるでしょーが!」

未だに疑っていることに呆れつつ、ヒカリは自分のカップのお茶を飲む。独特の苦みがあり、味が漢方っぽい。


 ヒカリが飲む様子をじっと見ていたオーレルだったが、やがて覚悟を決めたような顔をして寄って来ると、カップを受け取り口をつける。

「……少し苦いんだが」

「そういうものなの、毒じゃないですからね。第一、草汁はもっと苦いじゃないの」

不安そうな顔をされたので、ビシッと言ってやったヒカリだった。

 しばらくしてもお腹を下すなどの症状が現れないことを確かめ、オーレルがようやく安心したらしい。

「ふぅん、よく味わってみれば、身体が温まる気がするな」

「そういうものなの」

現金なもので、毒ではないとわかったとたんに、お代わりを要求してきた。

 どうやら気に入ったらしい。


「で、話はそれだけ?」

ズズっとお茶を啜るヒカリに、「忘れるところだった」とオーレルが告げた。

「お前には、群生地を見つけた報酬が砦から出るぞ」

「本当!?」

報酬と聞いた途端に、ヒカリの表情が輝く。

 お金に反応したヒカリに微妙な顔をするオーレルだが、生きていくにはお金が必要なのだから仕方ないではないか。

「いくら出るの!?」

「……金貨十枚だ」

金貨十枚とは奮発したものだ。

 ヒカリの感覚では、金貨一枚が一万円程度。それが十万円となると、国境の街では結構な金額だろう。

 それだけ砦も薬草不足に悩んでいたということかもしれない。


「ふっふっふ、お店の拡張をしようかなぁ」

空き地になっている奥に作業スペースが欲しいと思っていたところだ。

 今度は拾い物ではなく、木材を仕入れて小屋を作るのもいい。

 隣の家の子供たちに手伝ってもらい、御駄賃をあげるのはどうだろう。

 ――夢が広がるわね!

 ヒカリは明るい未来を夢想して「くふふ」と笑った。

 さらに、オーレルが言う。

「そして上司からの伝言だ、他にも群生地を見つけたら教えてほしい、だそうだぞ」

「ふーん、謝礼が出るならいいけど」

偉い人にまでお願いされるとは、よほど今回の薬騒動が応えたようだ。

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