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魔女は真面目なお仕事です!  作者: 黒辺あゆみ
第一章 ひよっこ魔女の旅立ち
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2話 魔法は危険を伴うもの

無事に雪山を脱出したヒカリは街を目指すことにしたものの、雪崩に流されて疲れ果てている上、日暮が近いこともあり、休憩出来る場所を求めた。


冬の寒さで魔獣もほとんどが冬眠してくれていたから助かったものの、あんなに大騒ぎをすれば普通は寄ってたかって襲われたところだ。


 だが麓のあたりはほとんど雪が解けており、冬眠した魔獣もそろそろ起きる頃だろう。腹を空かせた魔獣にうっかり会った日には、間違いなく襲われる。

 そう、今のように。


「うぎゃあ! 雪崩の後はこれとか、もう無理無理ーー!!」

走れども足は言うことを聞いてくれず、すぐに雪解け水で濡れた地面にべしゃっと転ぶ。とたんに泥まみれになったヒカリに涎を垂らして近付くのは、背中に角をいくつか生やした大きな熊だった。


「もうどっか行って、≪爆ぜろ、炎!≫」

ヒカリが叫んで、あの雪崩でも手放さずに済んだ杖をぶん回した瞬間――

 ドガアァン!

 熊が大爆発を起こした。


「ふぎゃあ!」

ヒカリとしても予想外のことで、爆風に煽られてさらに転がっていく。やがて爆風が治まり、ヨタヨタと立ち上がる。


「……熊は?」

見渡すものの熊がいた場所には当の熊はおらず、地面や木々がこんがり焦げているだけだった。どうやら慌てたあまり、魔法の加減を間違えたらしい。熊を跡も残さず焼いてしまうなんて、我ながらヤバ過ぎる。


 それに、山を下れば人が住む街があるという。もし、街の住人が山に入っていたら……

 ――誰もいなかったでしょうね!?

 色々限界で周辺確認を全くしなかったが、あの時自分以外の悲鳴なんて聞こえなかったので、精神衛生上無人だっと思うことにする。

 ――以後、気を付けよう。


 雪崩と熊のおかげですっかり疲れ果てたヒカリは、今日はもう休もうと決めた。できれば安全に休みたいところだが、都合よく建物なんてなく、仕方ないので野宿となった。実は異世界生活でも野宿は初だったりする。


「サバイバル知識なんて、日本の学校も師匠も教えてくれなかったよ」

林間学校でも宿泊はちゃんとした建物に泊まったし、アウトドア料理といっても調理施設は整っていた。今にして思えば、あれは野外活動した気分になるイベントだったんだなと思う。


 師匠の家でもちょっとした狩りなどはしたものの、屋外で寝たことはない。あの魔獣が跋扈する場所でひよっこ魔女たるヒカリがそんなことをすれば、魔獣の餌になるしかない。


 野宿初心者なヒカリなりに考えて、まずは火の確保をすることにした。近くから木の枝や枯葉を集めて一か所にまとめると、杖を握ってそこにかざす。


≪灯れよ、小さき火≫

ヒカリが呟くように言った後、杖の先にマッチ程度の火が生まれた。それを枯葉に燃え移らせると木の枝に燃え移り、やがてオレンジ色の大きな火となった。


「ああぁ、あったかいぃ!」

たき火の温もりが身に染みる。

 ――魔法でローブの中を暖房していたとはいえ、私ってよく凍死しなかったな。

 自分で自分を褒めてあげたい。


それにしても麓は春が来ているとはいえ、まだ寒い。ヒカリは冷気と魔獣除けの結界を張ると、吹雪かれた挙句に転んで泥まみれになった毛皮のローブを脱ぐ。雪と泥水にまみれており、早く洗わないと汚れが取れなくなる。


≪溜まれよ、水≫

ヒカリが杖をかざすと、空中に大きな水の塊が浮き上がる。その塊に脱いだ毛皮のローブを投げ入れ、水流でグルグルと回す。洗濯機代わりの便利な魔法だ。

 ――習い始めて三年とはいえ、なかなかの魔女っぷりじゃない?

 ヒカルは洗濯しながら、自画自賛する。


 師匠曰く、大地には「魔力の道」なるものが通っており、植物の根のように張り巡らされているという。その流れる魔力を使い現象を生み出すのが、魔法だ。

 師匠のようなベテランだと呪文も杖も必要ないらしいが、ひよっこ魔女たるヒカリはこれがないと魔法が発動しない。


 たき火で十分に温まったところで、日が暮れる前に食事の準備だ。雪崩騒ぎで昼を食べ損ねたので、お腹が空いている。

 ――でも雪崩に乗っていないと、たぶんまだ雪山を脱出できていないよね。

 雪山で一泊を避けることができて幸運なのか、やはり雪崩にあったのは不幸なのか。判断が難しいところだ。


 とにかく夕食を食べようと、ヒカリは背負い袋から干し肉とパンを取り出す。干し肉をたき火で炙ってパンに挟む。次に取り出したカップに魔法で水を溜めると火で温め、その中に適量の茶葉を入れた。雑な淹れ方ながらも温かいお茶を飲むと、身体の中も温まる。


「はあぁ、幸せ~」

温かな食事を食べて満足したヒカリは、洗濯で綺麗になった毛皮のローブを魔法の熱風で乾かしつつ、ふと思い出した。

「あ、そうか。これからは人前で魔法を使っちゃ駄目なんだっけ」

師匠の家ではなんでも魔法でこなしていたので、魔法を使わない生活というものが想像できない。


これはもしや魔女の試練的なもので、魔法に頼って生きていくなという師匠の教育だろうかと考えたりもするが、今大事なことは魔法無しでどうやって生活するかだ。

 ――水は井戸から汲むの? 火はどうやってつけるの?

 ヒカリはこの世界での基本的生活の仕方が思い浮かばず、不安が募る。


一方で、師匠以外の人間と出会える楽しみもあった。師匠の家で読んだ本のように、国を守る魔法使いや魔女がいるのならば会ってみたいし、師匠が使う以外の魔法だって見てみたい。

 ――異世界での友達ができるかな、あとキュンとする出会いも欲しい!

 ヒカリは不安と期待の両方を抱きつつ、乾いた毛皮のローブを布団代わりに着こんで、眠りにつく。


 初めての野宿で緊張したヒカリが熟睡できるはずもなく。夜明けと共に起きたので簡単に朝食を食べ、街に向かって出発する。

 今後のために薬の材料を積極的に採っておくのがいいかと、道中ヒカリは周囲を観察しながら歩く。幸い雪解け跡に新芽が出ていたので、せっせと薬草を採取していく。


 そうして進むと歩みも遅くなるというもの。途中でこの調子では日暮前に街に着けないと悟ったヒカリは、速足を通り越して駆け足で進んだ。おかげで運動能力底辺のヒカリは何度も転び、ローブは再び泥だらけだ。モコモコした格好をしていなければ、結構な擦り傷を作っていたことだろう。


 結果として目指す山の麓から見えた街に到着したのは、その日の夕方のことだった。


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