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魔女は真面目なお仕事です!  作者: 黒辺あゆみ
第二章 ここは薬屋ですから!
17/59

17話 これを薬と認めない!

 そして翌日。

「これが薬だ、とりあえず栄養剤を持ってきた」

やって来たオーレルがカウンターに置いた瓶には、緑色の液体が入っていた。

 振ると、ドロドロとした中身が揺れる。

 一見、口に入れてはいけない危険物かなにかに見える。

 ――いや、見た目だけで判断しちゃ駄目だよね。

 見た目を犠牲にしただけよく効くかもしれないし、もしかして、案外味はまともな可能性もある。

 そう考えたヒカリは、瓶から手のひらに薬を少しだけ零して舐めてみる。


「……んぶっ!」

だがすぐに奥の部屋へ駆け込み、慌てて口の中を水で濯ぐ。

「青臭っ!? 飲み難っ!? 喉がイガイガする!!」

カウンターに戻ってきたヒカリは盛大に喚いた。

 その味は、強いていればその辺の草を食べたかのようで、青汁の方がもっと美味しそうだと思うほどだった。

「仕方ないだろう、これが薬だ」

なんてものを飲ませるのだと、涙目で文句を言うヒカリにだったが、オーレルは冷めた目を返すだけ。

「こんなのをいつも飲んでるの!?」

「俺の知る薬は、だいたいこんなものだ」

ドン引きするヒカリに対して、この薬に慣れているであろうオーレルは普通の顔だ。

 その反応の薄さは、達観しているようにも見える。

 ――そう言えば最初、薬に味がついているって驚かれたよね。

 反応が大げさだと思っていたが、いつもこれを飲んでいたのなら、あの驚きも理解できる。


「これ薬っていうか、ほぼ草じゃん!」

草をすり潰したものを瓶に詰めただけの代物で、味を調えたりもしていない。

 これは飲みにくくて当たり前だろう。

 だがオーレルは、ヒカリの抗議に理解不能だというような顔をする。

「薬とは、薬草で作るんだから当然だろう?」

「いやいやいや! 当然じゃないよ!?」

この薬を基準にされたらたまったものじゃない。

 薬屋の薬と魔女の薬は基本別物だが、普通の薬の作り方も一応教わっている。

 薬草から抽出するエキスには、微量な魔力が含まれている。

 魔女の薬は、数種類の薬草エキスを練り合わせて魔力濃度を上げる。

 それに対して普通の薬は、一種類の薬草エキスを抽出するのだ。

 ――魔力を練り合わせるのに魔力を扱うから、魔法を扱う人じゃないと無理なんだよね。

 薬草の中のエキスが薬となり、それ以外は邪魔なもの。

 それをまるっとすり潰しただけのものが、果たして薬と言えるのか。

 せめて草の繊維は取り除いて欲しい。


「どうだ、なにかわかるか」

「どうって……」

オーレルにコメントを求められるが、ヒカリは戸惑う。

 なにせ草っぽさが口中に広がって、なにも考えられない。

「私の薬がなんで薬と思われなかったのが、やっとわかった気がする……」

ドロドロの緑色を見慣れていたら、綺麗な色のジュースのような液体を、薬だと認識できないかもしれない。

「こんな色とりどりの液体は、夜にベッドの中で使うものによく見られるな。当初お前の薬が誤解され続けたのは、たぶんこの見た目のせいだ」

オーレルは言葉をぼかしたが、要するにエロいことをする時に使うもののことだろう。


 ヒカリは日本にいた頃、興味本位でネットで見たことがある。ローションなどのラブグッズ系の商品には、お菓子やジュースと間違いそうなものが多くあった気がする。

 世界が違えども、凝る方向性は同じなのかもしれない。

 ――でも、だったら薬だってもうちょっと開発の余地があるもんじゃないの!?

 師匠が教えてくれた「普通の薬の作り方」が、全く普通ではないとはどういうことだろう。

 師匠が教えてくれた作り方は、もしかして現在失われているとでもいうのか。

 ――なんか師匠に聞いていたのと、何百年単位で時代が違う気がする!

 せっかく三年間で覚えたこの世界の常識が、ガラガラと音を立てて壊れていく。


「もういっそ、薬草が生えてる場所を見に行く! そっちの方がなにかわかる気がするし!」

情報収集が役に立たないのなら、現場を調査するしかない。

 ――あんな青臭いだけの薬の原料がどういうものなのか、この目で確かめてやる!

 半ばやけっぱちなヒカリの宣言に、オーレルは眉をひそめる。

「見に行くのはいいが、場所はわかるのか? 話を聞いていると、地理に詳しくないようだが」

「うん、わからないよね!」

ヒカリが胸を張って宣言する。

 歩きながら魔力を探れば、なんとなくでもわかるような気がする。

 薬草が枯れているということは、流れる魔力に異変がある可能性がある。

 だが、そんなことを言うわけにはいかない。

 師匠の教え以前に、魔力がどうのと言い出したら、頭がおかしいと思われるだろう。


「お前はどうしてわからないのに、自信満々な態度なんだ」

オーレルが深いため息をつくと、一つ頷いた。

「わかった、俺が案内しよう」

ヒカリは一人で行くつもりだったのだが、意外な申し出をされる。

「え、いや、別にいらな……」

「こういうのは早い方がいい、明日出かけるからな」

そしてヒカリが断る暇もなく、オーレルはそう言い置いて帰って行った。

 ――え、本当にアイツと二人で行くの?

 思わぬ道案内を手に入れたが、二人で出かけることに不安しか浮かばなかった。

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