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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

発達障害シリーズ

未診断の加害者

決して発達障害者を貶めたり揶揄する目的ではないことを記しておきます。

現実に、このようなことが起きているのではないかと思い、空想して書きました。

逮捕から裁判の流れなど、リアルとは違うかもしれません。すべて想像で書いていますので、間違いがありましたらご指摘お願いします。


実際には、発達障害持ちでも運転に適性のある人もいるので、一概に、運転の適性がないとは決めつけられないと思います。

 麻田泰史(あさだやすふみ)自身、運転には向いていないのではと常日頃思っている。普通自動車免許を取るのにギリギリだったからだ。時々左右が分からなくなることがあり、右ウィンカーを出して左折したことがある。教習所の教官の間では「学校始まって以来の問題児が来た」と物笑いの種になった。教習所ではパイロンにぶつかったりと散々な様子。仮免では一回落ちている。マニュアルは無理だったのでオートマで免許を取った。


 麻田は常日頃から、自分は発達障害ではないかと疑っていた。とにかく気が散りやすい。注意力散漫で衝動的に動いてしまう。おまけに運動神経は子供の頃から鈍かった。球技も体操も苦手。かって父親に、自分は発達障害ではないかと申し出たが。「そんなことはない。お前は正常だ。甘えるな」と一蹴された。麻田は診断を受けたかったが。親に阻まれて諦めた。

 

 免許はとったものの、運転が下手なままだったので親の命令で近所のホームセンターやスーパーに運転の練習に行くのが日課になっていた。麻田は、これがものすごく苦手だった。心臓がドキドキしてハンドルを握るだけで冷や汗が出る。今日も嫌で嫌でたまらない運転の練習に行かねばならず、彼の心は重かった。

家族は乗車せず、麻田は一人で運転席に座る。


 今日の練習先は初めて行くホームセンターだった。いつも困るのは出入り口を間違える事だった。今回もそれが起きる。入口だと思って入ると、出口だったのだ。前から大型のワゴン車がやってきた。慌ててバックしようとして、ギアをRに入れた。「急がなきゃ」と焦る。後方確認がおろそかになった。運悪く、スクータータイプの電動車椅子が近くを走行していた。麻田は急いでアクセルを強く踏んだ。車両後部に伝わる嫌な感触。誰かの叫び声。麻田は固まった。


 警察が来た。救急車も来た。麻田は動けなかった。「だから運転なんてしたくなかったんだ」と泣きながら叫んだ。後にこの言葉がマスコミに取り上げられて、ネットでは「甘えている」「被害者のことを考えていない」「自分勝手」と激しく炎上した。警察が来た時に暴れたので、麻田は逮捕された。麻田はパニックを起こしたのだ。麻田のとる行動が発達障害の症状だとは理解されず、また警察関係者に発達障害を知る者も少なかったため、心証を著しく悪くさせた。


 取り調べが終わり、後は裁判だけとなった。麻田は憔悴しきっていた。反省も謝罪の言葉もなく、ただただ頭の中に様々な想念が浮かび巡り、家族からの叱責も不安材料として追加された。警察官から「謝罪に行ってもいいが、被害者の家族は受け入れてはくれないだろう」と言われて、初めて謝罪の必要性に気づかされた。


 被害者は、幸い軽い怪我で済んだが、麻田の発言が伝わっていたので、嫌悪感をこじらせていた。麻田の父親は、仕事で家におらず。麻田が一人で謝罪に向かうことになった。彼は敬語が苦手でいくら勉強しても覚えられなかった。なので、母に言われた謝罪の言葉をメモしておいたが、そのメモを紛失してしまった。

彼は常識がなかったので、菓子折りも持たずに家を出た。


 被害者宅へ行き、呼び鈴を押す。中からくぐもった声がした。中年の男性の声だ。車いすの青年の父親だろう。名前を告げると、「顔も見たくない。帰れ!」と強い口調で言われた。麻田はどうしていいのかわからず、しばらく被害者宅の玄関で佇んでいた。


 申し訳ない気持ちはあるが、この場合どうしていいのかわからなかった。とにかく謝罪しなくてはと思い。石畳の上に額をこすりつけて土下座した。「不注意で事故を起こして申し訳ございませんでした!」と

大声を出した。


 玄関が開いて、家の主人が出てきて、「大声を出すな!出ていけ!」と怒鳴られた。麻田はやっと状況を理解して、足を引きずるようにして自宅へと戻って行った。額には血がにじんでいる。


 裁判の結果は、執行猶予はついたものの、最初の発言がマスコミを賑わせて、「身勝手な若者の代表」として週刊誌の記事にまでなった。彼の本名が活字になって躍った。


 麻田に発達障害の診断が出たのは、それから十年後のことだった。


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