8話
今回幼女がしゃべります。
改9月11日
―えーと、シャリー?私のことが分かる?
「はい。母様ですよね?」
―う、うん。
「母様・・・?」
・・・母様?
え?
私、異世界に来たら母親になりました。
うん、おかしい。
確かに私はシャリーを生み出したし、シャリーの頭にあるカランコエの花以外に<私>を依り代としたけども・・・。
まあ、別に不都合は無いからいいか。
それにしても母親か・・・。
―リーユ。わしは洞窟に戻るぞ。森にいる精霊達にお主等のことを説明する必要があるからな。
その準備をしてくる。
―うん、分かった。また明日お爺ちゃん。
―またな。
「お疲れ様ですフィン様。」
お爺ちゃんのことはフィン様っていうのか。
よくわからないな・・・。
お爺ちゃんは術を解いて洞窟に戻った。
私はそれを見送ってからシャリーの方を見て話す。
「いまからあなたにやってもらいたいことをはなすよ。」
「はい、母様。」
「・・・あなたはだれかがきたらやみときのまじゅつをつかい、<私>をかくすことでまもってほしい。
それと、ときおりまちにむかい、きになったじょうほうをあつめてきてくれるとうれしい。いまはまだあなたしかいなくてふたんをかけるとおもうけど、じょじょにかぞくをふやすからよろしく。」
「分かりました。」
「あと、きほんてきにねんわでかいわするから。わたしはこのとおりうまくろれつがまわらないからね。いまみたいにゆっくりはなしているとじかんかかるから。」
「え・・・。」
「わかった?」
「分かりました・・・。」
基本的に念話で会話するといったらすごいがっかりした顔された。
まあ仕方が無い。幼女の姿をしているせいなのか舌足らずでしゃべりにくいからな。
基本ゆっくりめに話せば上手く話せるけども・・・時間かかるんだよ・・・。
声を出して会話したほうが教育的にもいいと思うがこればかりはどうしよもない。
私の威厳にかかわる。
まあ、今の容姿で威厳(笑)って感じだけども。
・・・しかし、異世界に来て4ヶ月目で子持ちになるとは思わなかった。
しかもこれからゴーレムやホムンクルスを生み出す予定だからまだ増えるんだよなあ。
そういえば、精霊はどうやって増えるのだろうか?
今度聞いてみよう。
翌日、いつもどおり私たちはお爺ちゃんの洞窟に行くべく歩いていた。
洞窟が見えるくらいの場所まで来ると歪な魔力を感じ取った。
歪な魔力を放つのはたいてい魔物である。
私たち、精霊が感じる歪な魔力とは、魔物の魔力に含まれている穢れが原因である。
穢れの許は瘴気で、穢れは瘴気を濃縮したものだと考えればいい。
なぜか魔物を倒すと穢れの含まれてない魔石が取れるが・・・この世界の謎の一つらしい。
そんなわけで、周囲から歪な魔力、穢れをを感じるのでフォレストウルフに囲まれたかなと考え、シャリーに念話を送る。
―囲まれてる。警戒して。
―はい。敵は狼型の魔物ですね。数は36。
―36・・・私が主に戦うから支援は任せたよ。
―わかりました。
ちなみにシャリーは支援特化なので戦闘能力は低い。
だがシャリーは闇の精霊石に組み込まれていたフィンの魔術の知識を受け継いでいるのでかなり多彩な支援魔術を扱える。
シャリーは支援に徹するのでこの数をほとんど私一人で倒すことになるが、何度かフォレストウルフの群れと戦っているので、定石どうり飛んで空中に逃げた。
フォレストウルフ達は敵が上空に逃げると、群れの約8割が石礫で攻撃してくるので、防げ易い。
シャリーも同様に空中に逃げる。
フォレストウルフたちとある程度距離をとったら、攻撃魔術と防御魔術を構築する。
まず、クルミに構築した防御魔術を発動させる。
「【樹壁】」
私が魔術を発動させると、クルミの形が周囲の木々を巻き込んで樹へと変わり、私たちを囲んで盾となった。
シャリーは相手の五感を奪う闇の魔術を一瞬で構築し、下にいる狼すべてを対象に発動する。
「【簒奪】」
シャリーが魔術を発動させると一瞬暗闇が広がり、闇が晴れると共に簒奪の対象となった狼達の五感が消滅した。
魔術をまともに受けてしまった狼達は突然のことにうろたえ始めた。
この隙に攻撃魔術を完成させて、二本の鉄串を狼が集まっているところにそれぞれ投擲する。
「【乱杭】」
狼達の真下から無数の木杭が生えて串刺しにしていく。
この攻撃でほとんど倒したので、残った狼にクルミを投げつけて倒していく。
うん、倒せたな。
シャリーがいたお蔭で無傷で勝つことが出来た。
それにしてもシャリーかなりつよくないか?
魔術の構築から発動までほとんど一瞬だったぞ・・・。
さすが、お爺ちゃんの知識を受け継いでいるだけある。
シャリーがいればここの森の魔物は大丈夫かな。
シャリーの実力に戦慄しながらも使った鉄串と狼達から魔石とクルミを回収していく。
すべて回収し終えたら洞窟に入っていく。
洞窟に入るとお爺ちゃんが目の前に現れた。
―来たかリーユ、シャリー。今日は3体の精霊にあってもらう。
―そういえば昨日言ってたね。それでその精霊達は?
―こっちだ。
―うん。
私たちはお爺ちゃんについて行っていつの間にかあった扉に入っていく。
おお、なんだここ・・・。
私たちが扉を潜り抜けると、そこは花畑だった。
―お爺ちゃん此処は?
―洞窟の中を少し変えてみた。ここならばお主等や彼奴らも問題ない。
―え?
少し魔力を探ってみると、風、水、火の魔力を感じた。
一体、何処に?
私が魔力の元を探していると、暴風がおき、空中に水の塊が漂い、火の柱が突然現れ、それぞれ形をとっていく。
―お前がリーユか。俺は火の上位精霊のサラマンダーだ。よろしく頼む。
炎の柱が集まると、掌サイズのトカゲが現れた。
ちっちゃかわいい。
―我は風の上位精霊シルフ。よろしく。
風が一所に集まると、人型を取った。しかし、女性体なのか男性体なのかは判別できず、姿も希薄で
集中しないとよく見えない。
透明人間?
―私が水の上位精霊のニンフだ。これから長い付き合いになるだろう。よろしく頼む。
空中の水が地面に降りると共に弾けとんだ。
水がはじけた場所には水色の髪をした凜とした美しい女性が立っていた。
なんというか、姫騎士ってかんじがする。
―私は木の中位精霊カリュアーのリーユです。よろしくお願いします。
「お初にお目にかかります。私は母様の使役妖精であるシャリーと申します。よろしくお願いします。」
そしてこの挨拶の差である。
いったい何処で身に着けたんだろうね、シャリーは。
シャリーの丁寧な挨拶に負けた気分になっていると、ニンフが近づいてきた。
―?なんでしょう?
―そう畏まらないでくれるか?普段話している口調で接してくれると私はうれしい。
―うん、分かった。それで?
―抱っこさせて欲しい。
―・・・。えーと、いい、にゃっ!?
ニンフがあまりにも真面目な顔で抱っこさせて欲しいと言ってきたので一瞬答えられなかった。
気を取り直して了承の答えを返そうとしたら、言い終わる前に抱きつかれてしまった。
―はぁ・・・かわいい・・・。
―え・・・あの・・・。
ニンフは恍惚の表情で私を抱きしめている。
若干怖い。
「母様!?」
私が困惑しているとシャリーが近づいてきた。
一瞬ニンフの顔が獲物を狩る狩人のように見えたのは見間違え出は無いと思う。
シャリー逃げてー!?
私の心の叫びもむなしくシャリーも捕まった。
―あの、これ・・・。
―好きにさせてやればいい。
とお爺ちゃん。
―我慢してくれ。
とサラマンダー
―ごめん。
とシルフ。
見捨てられた!?
◆ ◆ ◆
その後、約3時間ほどニンフに好き放題された。
何をされたかは言うまい。
お爺ちゃんが仲裁に入ってくれて、私たちは何とか解放された。
そして3体の精霊と少し話した後、私たちは<私>の許に戻った。
私は洞窟に行く途中に手に入れた魔石を木の根元に隠しながら、シャリーに話しかける。
―シャリー・・・大丈夫?
「は、はい。大丈夫です・・・。申し訳ありません、私母様を守れませんでした・・・。」
―あれは・・・仕方ないんじゃないかな・・・。
「でも・・・。」
―私は気にしてないからいいよ。そういえばシャリーは念話を使わないね?
「使ったほうがいいですか?」
―私としては少し違和感があるだけだからどっちでも良いよ。
―分かりました。状況に応じて使い分けます。
シャリー器用だな・・・。
―うん分かった。それで・・・。
私は<私>を見遣る。
―分かってると思うけどこのクルミの木が<私>だよ。実際に隠蔽するとどうなるか見てみたいから魔術を使ってみてほしい。
―分かりました。・・・いきます。
シャリーは<私>をじっくり観察した後、魔術を構築し始めた。
シャリーは体内に精霊石があるので魔道具や術式を使わなくとも魔術を使えるのである。
10秒ほどで魔術を構築し終わり、術を発動する。
「【闇霧】」
<私>を真っ黒な霧が蔽い隠す。霧がはれたあとには<私>の姿は消えていた。
近づいて<私>があるであろう場所に触れてみるが触れることが出来ない。
おおー、すごいな。
どうなってるんだろうか?
私でもこの魔術が見えないけど・・・。
―<私>はどこに行ったの?
―どこにも行ってませんよ。今使った闇霧は五感と方向感覚、遠近感覚を狂わせる魔術です。なので実際には動いません。
―・・・すごいね。
―いえいえ、母様のほうがすごいですよ。
シャリーは謙遜しながらも若干誇らしげにしている。
かわいい。
―これなら大丈夫だろうね。術を解いてくれない?
―はい。
シャリーが一言つぶやくと真っ黒な霧が現れそのまま地面に吸い込まれていく。
その光景を見ながら、さっき狼の魔力を吸収したクルミを食べる。
多少消耗しているだろうと思いクルミを1つシャリーに手渡す。
―はい、シャリー。私のクルミだよ。これにはフォレストウルフの魔力が入ってるから、魔力を回復させてね。
―はい。ありがとうございます。
二人で仲良くクルミを食べる。
フォレストウルフの木属性の魔力を吸収したクルミは旬の新鮮な野菜を食べるみたいでシャキシャキしてみずみずしいく、豊かな風味がしてとてもおいしかった。
シャリーが食べ終えたのを見てからフィンへの伝言を頼む。
―そういえば・・・ごめんシャリー。お爺ちゃんに一週間後に街に向かう予定だと伝えておいて。
―分かりました。
シャリーはうなづいたあと、洞窟の方向に飛んでいった。
シャリーが洞窟に向かうのを見届けながら、分身を作るための準備をする。
<私>から枝と葉を集める。
分身に魔力の供給機関を作るためにたくさん必要なので、20分ほどかけて集める。
集め終わったら根元に隠してある魔石のなかで木属性の魔石をすべて取り出す。
取り出したら地面に術式を描き、魔石を組み込んでいく。
術式を完成させたら中央に水属性の魔力を吸収させたクルミの種子を置き、術を発動させる。
「【凝縮】」
術の発動と同時に魔石から魔力が抜けていく、中央にあるクルミの種子に吸収されていく。
すると徐々に種子の色が緑に染まり、凝縮の影響で硬くなっていく。
そして、すべての魔石から魔力を吸収し終えたら術が止まり、術式の中央に緑色に光る水晶が出来た。
そして水晶に用意しておいた術を組み込んでいく。
これが分身の核となる。
核を作り終えて一息ついていると、シャリーが戻ってきた。
何着かの服を携えながら。
―ただいま戻りました。フィンさまからこちらの品を預かってきました。
―・・・服?
―はい。街に出向くなら衣服が必要になるだろうとおっしゃり、何着か預かってきました。
シャリーは子供服をいくつか私に見せてくれる。
―これ、お爺ちゃんが用意したの?
―いえ、水の上位精霊様が用意してくれました。あと、服を着た姿を一度見せて欲しいと伝言を貰っています。
―そ、そう。
そういえば裸だったな・・・。
ずっと裸ですごしていたからわすれていた。
慣れって怖い。
それとニンフも怖い。
今回では街に向かうことが出来ませんでした。
次話こそは街に向かいます。