6話
幼女危機感を覚える。
改9月10日
驚いて固まっていると、巨大な狼がおもむろに立ち上がりゆっくりと近寄ってきた。
やばい・・・やばいやばい!
こんな強そうなのがいるとは思っていなかった!
いや、ある意味予想してたけども・・・流石にこれは・・・。
この狼から凄まじいプレッシャーと魔力を感じる。
実際、強く澄んだ青い光を発している。
私の総魔力量の何十倍だこれは?
どうする?
いったん逃げるか?
しかし逃げてもすぐに捕まりそうだ。
逆に近づいてみるか?
・・・食べられそうだ。
逃げるか、近づくか・・・。
ぐずぐずしている間に巨大な狼が目前に来ていた。
巨大な狼は私を見下ろしている。
あ、終わった。
これから私は食べられてしまうのか・・・。
痛くないといいなぁ。
うぅ、もっといろいろやりたいことがあったのに・・・。
変な洞窟に入らなければ良かった・・・。
・・・うん?あれ?何もしてこない?
―なぜ我が領域を訪れた、木の精霊よ。
こいつ直接脳内に・・・!
やってる場合か!
え?
木の精霊?
・・・私のことか?
木の精霊というと・・・ドリアードか。
というか私を食べないのか。
身構えて損した・・・。
ほっと息をつく。
改めて巨大な狼を観察する。
体長は約10メートル程。
銀色の毛に覆われており、見る限りふさふさである。
魔力の色は濃い青色で、魔力の密度、量は計り知れない。
あと、普通にしゃべる事はできないようだ。
それにしてもこれは念話か?
頭の中に響くようで、できたら面白そうだ。
それに、使い勝手もよさそうだ。
今の私だとしゃべりづらいし。
見る限り簡単に出来そうだから、やってみるかな。
目の前の巨大狼を参考にして念話の魔術を使用する。
魔力のパスを相手につなぎ、自分の言葉を届かせる。
―散歩、です。
―・・・そうか。
普通に出来た。
だけど・・・やばい、表情は変わらないけどすごい残念な子を見る目でこちらを見ている。
う~ん・・・それ以外に理由はないしなあ。
とりあえず、好奇心は猫をも殺すというのを体感できたな・・・。
それはそれとして、防御魔術とか考えておこうかな。
それに、念話ももっと素早く出来るようにしなくちゃなぁ・・・。
―ふむ・・・中位の精霊にしては自我がしっかりしているな。しかし、わしが知る限り森には木の精霊は一体、木の大精霊しかいないはずだが・・・。新たに生まれたのか?
木の精霊は少ないのか・・・。
というより、他に精霊を見たこと無いんだよね。
はぶられてる?
もしかして私、はぶられてる?
いじめ反対。
あ、答えなくては。
―目覚めたのは一ヶ月ほど前ですが・・・。
―ふむ、一月前か・・・その少し前に木の大精霊の気配が消えた・・・。森で何かあったのか?・・・まだ死んではいないようだが・・・わしが動いたほうがいいか。あの国が何かやった可能性もある。・・・その籠の中に入っているのは何だ?
―私のクルミと鉄串です。
―胡桃と鉄串・・・?両方とも普通ではないな。鉄串は強いマナと魔力の影響でオリハルコンに変質しておるな。胡桃は・・・魔石に似た性質を備えているようだ。その胡桃のおかげで木の精霊でありながら我が洞窟を進むことが出来たようだ。
オリハルコン・・・ファンタジーだなぁ。
・・・オリハルコン?
私、普通に<私>の根元に突き刺していただけなんだけど・・・どうして凄そうな物に変質しているんだろうね・・・。
これからはきちんと管理しないと。
というか、盗んだものだけどね。
・・・今度アリアを見つけたらお詫びの品でも作っておこう。
これでこの問題は終了だ。うん。
それよりもクルミだね。
―どいうことですか?
―わし氷の属性とお主の木の属性は相性が悪い。木の属性の強い木の精霊が氷の属性が強いこの洞窟の中にいるとすぐに衰弱する。特におぬしは木の属性がかなり強い。本来であったらこの洞窟に入りたいと思いもしないだろう。だが、籠の中に入っている胡桃が魔石と同様の働きをしてこの洞窟の魔力を吸収したおかげでおぬしには影響が出なかったのだろう。
ふむふむ、属性の相性か・・・。
木の属性は氷の属性に弱いのか。
冷帯でも生える木はあるけど・・・それとこれとは話は別か。
それにしても、私のクルミは意外と凄い物だったのか。
変だとは思っていたけども、魔石と同じ働きをするって・・・。
私普通に魔石と似た用法で使ってたな。
なぜ気づかない私。
籠の中のクルミを見てみる。
巨大狼が推測したとおり魔力を吸収したせいで、すべて肥大化しており、青い光を発している。
1つ取り出して食べてみる。
シャキシャキとした感触で、りんごのようなにおいがする。
実際、りんごの甘酸っぱい味がし、冷たいので、シャーベットのように感じる。
クルミを味わいながら考える。
魔石と同じ働きか・・・。
まあ、分かってたけど。
だけどこうやって指摘されると本当に私のクルミって謎だな。
いろいろな味がするし。
そこからしておかしい。
―それにしてもどこでそのようなものをてにいれたのだ?ほとんど魔石とかわらないぞ・・・。
―私が宿っているクルミの木からですが・・・。魔石とかわらない?ということは魔石の代用になるということですか?・・・魔石の特性について教えてもらえませんか?
―胡桃の木に宿る木の精霊・・・つまりカリュアーか。木の精霊ということでも珍しいが、そうか、カリュアーか。・・・なつかしいな。
狼は昔を思い出すかのように目を細めた。
―それならばおぬしの力の危険性について教えねばなるまい。その前に魔石の特性について知りたいのだったのだな?関連があることだから一緒に教えよう。
いい人・・・いや、いい狼だなあ。
それよりもカリュアー?
私の力の危険性?
なんだそれは。
確かに私のクルミはすごいとは思うが・・・。
それに昔私と同じカリュアー?に会ったことがあるかのような口ぶりだな。
そのときに何かあったのか?
・・・まあ話をしてくれるそうだかおとなしくら話を聞けばいいか。
それから1時間ほど話を聞いた。
目前の巨大な狼はフェンリルという氷の上位精霊で約3000年も生きているのだそうだ。
そして約2000年前に私と同じカリュアーと呼ばれる木の精霊と出会ったらしい。
その精霊は私と同様に魔力を吸収するクルミを生み出すことが出来た。
しかしそこが問題、で魔石は魔力を吸収する。
魔術の媒体になる。
魔道具の燃料になる。
武器や防具を作る時に埋め込むことで強力な武器を作ることが出来るなど、様々な用途がある。
だが、カリュアーが生み出すクルミは魔石と同様に魔力を吸収する。
魔術の媒体になる。
魔道具の燃料になるという魔石と同様の性質に加えて、クルミに自身の魔力を吸収させることでいざ魔力が不足したときにそのクルミを食べることで、不足した魔力を補給することが出来る。
また、クルミ自体の栄養分が高く乾燥させれば非常食になったり、水属性の魔力を吸収させればクルミに宿る魔力が切れるまで水を精製することもできる。
さらにクルミから作れる油は美容液や食用油、精錬時の燃料としてなど、様々な用途が存在した。
魔石と同等かそれ以上の可能性をもったカリュアーが生み出すクルミは、多くの人間に狙われた。
人間たちから搾取され続けた結果、しだいに数を減らしていったらしい。
カリュアーは4000年前から狙われ続け、4000年前はそこそこの数がいたカリュアーは、フェンリルが生まれた頃には激減していた。
長く生きるフェンリルも2000年前に出会ったカリュアーに出会ったのが最後だったらしい。
そのカリュアーもフェンリルが出会ってから数年後には死んでしまい、カリュアーという精霊は途絶えてしまったのだと思ったそうだ。
だが、唐突に洞窟を訪れた木の精霊が記憶に懐かしいクルミを持っていることに気づき話しかけたらしい。
そして、いまでもカリュアーが生き残っているのか聞き出そうとして話しかけたが、私がカリュアーだと知り、人間に狙われないように私の力の危険性について話そうと思ったそうだ。
普通のクルミとは違うなあとは思っていたが認識が甘かったようだ。
私はこの世界で生きていけるのだろうか・・・。
ちなみに精霊が宿る魔木の寿命は3000年から3500年ほどという設定です。
次話もまた少し時間が飛びます。