5話
改9月9日
この世界で目覚めてから一ヶ月が過ぎた。
猪に襲われて以来、たびたび狼や熊、角鹿、猪、猛禽類など、さまざまなタイプの魔物に襲われたが、クルミを投げつけることでどうにかなっている。
魔術は相変わらず使えないが・・・。
狼型の魔物は数が多く苦労したが、飛べるようになったら楽に戦えるようになった。
まあ、飛べるようになるのに一週間掛かったけれども・・・。
さすがに飛ぶという感覚が分からないから、難しかったんです・・・。
確かに飛べるようになったことで、戦闘は有利に運ぶことが出来るようになったが、空中戦に当初はなれることが無く、結構攻撃を受けてしまった。
魔物たちの中でも、狼の魔物、フォレストウルフ達はボスを倒さないと連携して攻撃してくるため、いまでも無傷で勝利するのは厳しい。
フォレストウルフは群れでの恐ろしさもあるが、単体でも高い身体能力を有しているので、角鹿や梟などの魔物同様に油断が出来ず、彼らの動きに慣れるまでに大分攻撃を受けてしまった。
私の体は魔力で出来ているため、攻撃を受けて傷つくいてもすぐに治るが、修復に魔力を消耗し、消耗が多い場合眠くなるようだ。
この一ヶ月の間に3回眠った。
食事よりも睡眠のほうが魔力の回復は早いらしい。
魔獣はいまだ見ない。
それはさておき、三人組が去った2週間後に別の集団がやってきた。
男3人女3人の6人集団だった。
最初に見た三人の同業者のようで、似たような服装、装備をしていた。
この集団は三日ほど<私>の近くで野営したので、盗み聞きしたり戦闘を観察したりすることでいろいろと知ることが出来た。
ちなみに初日に見た三人は、三日後に標的を抱えて帰っていくのを見かけた。
大きな怪我とかは無く、無事に仕事を済ませたらしい。
話が脱線したが、この森は精霊の森と呼ばれているらしい。
理由としては、大精霊が住まう精霊樹があること。
精霊が宿る魔木が数多くあることが理由らしい。
魔木というのは残念ながら知る事はできなかった。
この森の主は木の精霊であるドリアードらしく、木属性のマナが満ちているのでこの森には木属性の魔物や魔獣が多いようだ。
猪はなぜか地属性らしい。
ちなみにマナは大気中に漂っている魔力の源で、生命エネルギーと融合することで魔力になるようだ。
魔力を吸収されることは生命エネルギーを吸収するのと同義なので、クルミで魔物を倒すことが出来た。
なお精霊の森はエスタブリッシュ王国のイーアスという街の東に位置しているらしい。
イーアスの街の西側にはダンジョンがあり、冒険者は精霊の森かダンジョンに行って魔石を集めたり、魔獣の素材を集めているらしい。
三人組や6人の集団は冒険者だったようだ。
まあ、納得した。
むしろ精霊の森の奥に入るのは冒険者か兵士くらいらしい。
基本的に冒険者は一人か二人は魔術専門の魔術師がおり、何度かばれそうになりながらも彼らの魔術をじっくり観察することが出来た。
魔術にはいくつか方法があるようで、6人集団の魔術師は詠唱で魔術を使用していた。
少し予想外だったが、むしろアリアの魔術の使い方と比較できたので魔術についていろいろと分かった
魔術を使うには、自身の魔力を凝縮させて放出させることが基本で、その凝縮した魔力を整形することで、魔術が発動するようだ。
詠唱や魔石は魔力を逃がさず、効率よく整形するための方法らしい。
一先ず、魔力を凝縮させて、魔力の塊を頭の中でイメージした形に整形してみると、魔術を使うことが出来た。
むしろイメージするだけで勝手に形になるようだ。
私が始めて使った魔術は樹を生やす魔術だ。
初めて使ったときは感動して、喜んで樹を生やしまくったら魔物に奇襲されたのはいい思い出だ。
ちなみに、赤色は火属性、青色は氷属性、水色は水属性、黄色は地属性、黄緑色は風属性、黒色は闇属性、そして緑色は木属性で他にもいくつかあるらしい。
私はアリアと6人集団の魔術師の方法を踏まえて、クルミに魔力を籠め、そのクルミを投げつける方法をとることにした。
私は木属性がかなり強いようで、使う魔術の大半は木属性だ。
・・・三つしか魔術を作ってないが・・・。
魔術の実験中、木属性のほかに何か使えないかと思い、火をイメージして魔力を圧縮したクルミを樹に投げつけたら爆発した。・・・周囲に棘をとばして。
無論私は吹き飛んだ。
とりあえずこの魔術は手榴弾と名づけた。
イメージしながら投げるだけなので手軽である。
この一ヶ月の間、よく魔物に襲われており、その魔物の魔力を吸収していたせいなのか、<私>が少し成長した。
それに比例して、私は約80メートルほどの範囲まで移動できるようになり、総魔力量も増えた。
移動範囲が少し広がったので、移動範囲内を適当に散歩していたら<私>以外の胡桃の木を発見した。
しかし、その胡桃の木からはほとんど魔力感じることが出来ず、胡桃も普通だった。
魔物に投げてみたから間違いない(その胡桃はおいしくいただきました)。
私のクルミがおかしいようだった。
というより私がおかしいようだ。
・・・解せぬ。
また、独りぼっちか。
まあ、こんなふうに一ヶ月の間にいろいろとあったが、今日は先日見つけた洞窟を見に行ってみようと思う。
冒険者が近くに来れば盗み聞きするけれど、最近来ないので、魔術の練習や投擲の練習以外にやることが無く退屈していた。
だから洞窟探検するのも面白そうだと思ったのだ。
洞窟に行く前に鉄串を構えて、日課になった投擲の練習をする。
この鉄串はクルミと比べて魔術の調整がしやすいので重宝しているのだ。
・・・二本しかないけども。
奥の手としても使えるから大丈夫。
だが、最近鉄色の鉄串の色がだんだんと変わり、いまでは孔雀緑色になってしまった。
なぜだ。
<私>の根元に突き刺してたからか?
う~ん・・・分からない。
魔術の媒体に使っても特に異常はないし、以前よりも貫徹力は上がってるので、むしろより使いやすくなったくらいだ。
だけど、使うたびに思う。
盗んでしまった物だけど大丈夫かな?
十分あるといってたし、ほぼ使い捨てに近いようだけど・・・。
まあ、いくら考えても詮無い事だけどね・・・。
ぼちぼち考え事を止めて練習にうつる。
<私>の影に隠してある的を取り出して近くの木にくくりつける。
最初、<私>にくくりつけて、外したときすごく痛かったので、くくりつけた木に心の中で謝っておく。
ごめんなさい。痛いけど、我慢してね。
そして一本ずつ的の真ん中を狙い投げたり、二本同時に投げたりして練習する。
その後はクルミを使い投擲の練習をする。
ちなみに練習に使ったクルミは食べてしまう。
リサイクルは大事だね。
美味しい。
練習が終わったら<私>に生っているクルミをいくつか採り、鉄串とともに枝や蔦を使って作った籠の中に入れる。
準備完了が完了した。
さっそく洞窟に向かう。
洞窟はクルミの木から南西に60メートルほどのところにあり、私の足ならば徒歩2分ほどである。
本来の洞窟は真っ暗だが、洞窟から中は魔力の青い光で満たされており、中がよく見える。
前回は少し探索したが、この洞窟の中だと移動距離の制限がかからないことがわかっている。
不思議である。
だから洞窟探索なんてことができるのだ。
しかもこの洞窟は、魔力を探った感じでは魔物や魔獣がいないようなので、襲われる心配なく安心して散歩できる。
おそらく、この洞窟に魔物や魔獣がいないのは、氷属性の魔力が満ちており、そこらじゅうが凍てついているからだろう。
なのでよほど寒さに強くなければこの中に入れないだろう。
私は問題無い・・・寒いけど、問題ない。
足元も凍り付いているので、歩いていたら滑りそうだけど問題ない。
・・・何も着てない状態でこんな凍りついた洞窟を散歩することになろうとは・・・。
字面だけ見たらひどい。
洞窟は複雑に入り組んでいるが、散歩なので気軽に適当に歩いていく。
道中は氷で出来た巨大な自然のオブジェを見たり、時々生えている植物や茸を採取しながら進んだ。
~3時間後~
飽きた・・・。
最初のうちは幻想的な風景を見ていて楽しかったが、さすがに同じようなものをずっと見ていると飽きる。
あと、氷に青い光が反射してちかちかするしな・・・。
早く奥に着かないかな・・・。
願いが通じのか、突き当たりを曲がると扉が見えた。
うわぁ・・・。
なんかゲームとかだったらボスが出てきそうな扉がある。
・・・というか魔物や魔獣がいないから軽い気持ちで来たけども、この洞窟、結構やばいのではないか?
よくよく思い出せば、外から見たときも洞窟自体が青い光を出していたから、この洞窟は自然に出来たものではなくて、何者かが作り出したものだと思う。
・・・どうしようか。
引き返すか、扉の奥に行くか。
だけど・・・引き返そうにも帰り道がわからない。
・・・。
・・・行くしかないか。
ほっぺたを両手でたたいて気合を入れてから、扉の前に行く。
両手でゆっくりと扉を開いた。
・・・重い。
扉の奥から凍てつくような冷気を持つ風が吹きつけたきた。
反射的に目を閉じてしまう。
しばらく目を閉じていたら風が止んだので、恐る恐る目を開く。
扉の奥は大きな空間で、その空間の真ん中に高さが50メートルはある木が生えていた。
その木の根元には全長10メートルはある巨大な狼がおりこちらをじっと見つめていた。
あ、まずい。
巨大狼さん強そう。