3話
戦闘2連続。
幼女初めて声を発する。
改9月8日
「魔物か!おい!アリア、アーク起きろ!敵襲だ!」
テントから物音がすると共に二人の声が返る。
「分かった!今行く」
「分かったわ!」
それぞれのテントから金属音など少し響き、テントにいた二人が武器を片手に飛びだしてすぐさま迎撃の態勢をとる。
武器を構えながらアークがアリアに尋ねる。
「結界はどれだけ保ちそうなんだ?」
「フォレストウルフ30頭くらいなら・・・2分が限界ね。」
「よし、アリアは結界の中で魔術を構築していてくれ。俺たちは結界が壊れるまでに、アリアが魔術を完成させるまでにできるだけ敵を減らす。いいな?」
「おお。」
「ええ。」
3人が打ち合わせをしていると、1匹の狼が結界に突撃した。だが、狼は「キャン!」と甲高い悲鳴を上げながら吹き飛ばされ、燃えた。
今のは結界の効果のようだ。
今の光景をみた他の狼より一際大きい狼は鋭く一鳴きする。
その声を聞いた他の狼達は飛びかかろうとしていた体勢を崩して、ぐるぐると結界を回り、遠巻きに結界を包囲する。
なにあの結界怖い。
防御するだけではなく、迎撃もするなんて・・・。
狼が結界に触れた瞬間、さまざまな色を発した。
狼が衝突する直前に青の光を発する光の幕が現れ、黄色い光が青い幕に格子状に走った。
青い幕にぶつかった狼は、幕を破れず一瞬止まった。
その一瞬で狼は結界から飛び出るように出てきた赤と黄緑の光に覆われ、体中を切り刻まれながら吹き飛ばされ、赤の光が一際強く光った瞬間燃えたのだ。
・・・あの様々な光を発していた文字の効果かな?
赤はやっぱり火か・・・。
黄緑は風だと思う。
後は分からない。
もっとじっくり結界を観察したかったな・・・。
なんてことを考えていると、既に8匹の狼が倒されている。
今、ガッツが3体の狼を相手取り、アークが2体を相手取っている。
よくよく観察すると、二人は狼達を一箇所にまとめるようしながら戦っている。
なにかあるのだろうか?
また、狼達の動きを見ると、前衛と後衛に分かれ、たびたび役割を変えながら戦っている。
前衛は後衛に相手を行かせない様に、連携しながらちょこまかと動き回り、後衛は前衛に当たらないように器用に石礫で攻撃している。
一回り大きい狼は前衛後衛両方をこなしている。
へぇ・・・双方考えて戦ってるんだなぁ。
特に狼達の動きがすごいな・・・どうやって石を投げているんだか・・・。
流石に多勢に無勢で、結界が今にもわれそうになってきたとき、結界の中から声が聞こえた。
「準備出来たわ!」
「分かった!」
アリアのほうを見ると、手に6本の鉄串を持っており、鉄串についている石が青く輝いている。
アリアの周囲に青い光がぐるぐると巡っており、アリアの周囲には魔力で描かれた文字が躍っている。
次の瞬間、パリンとガラスが割れたような音をたてて結界が崩壊した。
アリアは崩壊と同時に素早く1本の鉄串をボスらしき狼のところに、もう二つの鉄串を離れて攻撃している狼に向け投擲し、呪文を唱えた。
「凍てつく檻に囚われよ・・・【氷棺】」
呪文を唱えた瞬間、鉄串を中心にして半径5メートルほどが氷に覆われた。
その結果、ボス狼らしき大きな狼と15匹の狼が魔術で出来た氷に飲み込まれた。
おそらく今はまだ息はあるが、すぐに息絶えるだろう。
「残りをお願い。」
「わかった。」
「ああ。」
残った狼たちはボスと仲間が一気に倒されためにかなり狼狽しており統率が崩壊している。
そのため、ガッツとアークの二人によってすぐに殲滅された。
残った狼が倒されたと同時に氷が割れ、中にいた狼たちが地面に落ちてきた。
「魔物がやって来るかも知れない。急いでここを離れよう。ガッツはテントの片付けをしてくれ。俺は魔石の回収する。アリアは警戒を頼む。」
「了解。」
「わかったわ。」
3人は手際よく片付けをし、30分程度で片付けと準備を終え、いつでも出発出来るようになった。
「そういえばアリア、串の数は大丈夫か?」
「2本なくしたけど、回収した分を合わせればあと23本あるわ。」
「なら大丈夫そうだな。出発するとしよう。」
3人組をさらに森の奥に進んでいった。
私は3人の姿が完全に消えると、木の陰から出てきて安堵する。
ふう、行ったか・・・。
案外別のことに集中が行くと大丈夫なのか。
戦闘中、狼とアリアの魔力が周囲を漂っており、私が魔術を使っていた事はアリアには気づかれなかったようだ。
そういえば・・・結界が崩壊したときに近くにあった鉄串2本盗んでしまったけど、大丈夫かな?
23本あれば問題ないとは言っていたけど、この串よくよくみたら意匠が凝らしてあるし、特注ぽいな・・・。
・・・ば、ばれなければ犯罪じゃない!
とても罪悪感を覚えるけれど・・・。
まあ、気を取り直して・・・この鉄串はなんなんだ?
串の頭の部分についている宝石みたいな石は・・・さっき言っていた魔石というものか?
石には魔力が溜まってるようだし。
触れてみようか。
石に触れると、力が抜けるような感覚を受けた。
石を見ると、石の色が青から緑へと変わっていた。
これは・・・私の魔力を吸収したのか?
私の魔力は緑色だったしな。
もう一本の串についている石にも触れてみよう。
すると、同じように力が抜けるような感覚を受けて、石が緑色に染まっていく。
・・・これで私もいろいろ魔術を使えるようになったのか?
ひとまず試してみよう。
私が知っているのは【火種】と【氷棺】の二つか・・・とりあえず【火種】かな。
一本を地面に刺して、呪文を唱えてみる。
「【火種】」
しかし、なにも起こらない。
・・・なにも起きないな。
何か足りないのか?
う~ん・・・分からんな。
地面に刺さった鉄串を回収する。
・・・そういえば初めて声を出したな。
というか声でるのか。
声は・・・当然といえば当然だが高い声だったな。
・・・低い声が出ても気持ち悪いが。
幼い頃、声変わり前の特有の声の高さだ。
あと、若干舌が回りづらいというか、話しづらい。
そんなことをぼんやり考えていると、嫌な感覚が体に走る。
勢いよく振り返り嫌な気配がする方を見ると、草むらから濁った光を発する猪が出てきた。
きょろきょろと周囲を見まわしていると、猪は私の方向ををじっくりと見る。
そして、猪は丁度いい獲物を見つけたといわんばかりに歓喜の鳴き声をあげながら、地面を蹴って私に向けて突進し始めた。
な、なんだいきなり!
私が見えているのか!?
くそっ、かわせるか!?
一瞬戸惑ったせいで、猪との距離はあまり無かった。
とりあえず、後先考えず横に跳ぶ。
あっぶない!
私はぎりぎりかわすことが出来た。
そのまま転がるようにして木の陰に隠れて猪の様子を伺う。
あっちも私の様子を伺ってるな・・・。
この場所だと戦いづらいけど、私はここから離れられない。
ならここで戦うしかない。
とりあえず、あの猪を撃退できればいいんだけど・・・無理。
攻撃手段がほとんど無い。
上手いことかわして、目とかを潰せればいいんだけど・・・動きを見切らなければ難しい・・・。
あの猪は全長2メートルくらいある。
正面からかわし続ければいつかは見切れるか・・・?
いや、無理だろう。
というか、賭けに近い。
いつか、まともに食らっておしまいだ。
・・・仕方ない、肉を切らせて骨を絶つ、だ。
私は木の陰から出てきて、隠れていた木を背にする。
そして鉄串を構えて、猪を待ち受ける。
猪は私をじっと観察してから、地面を蹴り突進してくる。
私は走って突進から逃げる。
先ほどよりも遅かったので何とかかわすことが出来たが、猪は向きを変えて私を追ってくる。
だが、私は猪が向きを変えた瞬間に猪の右側面に走り、右目に手に持っていた串を突き刺す。
猪は苦悶の表情で絶叫を上げた。
猪は予想外の攻撃と目をつぶされたことによってその場で暴れ、足を止めてしまう。
私は猪が暴れた拍子に投げ飛ばされる。
あう・・・あまり、痛くないけど、なんか疲れる・・・。
私は立ち上がりもう一本の串を用意する。
痛みから立ち直った猪は怒りを滲ませ幼女をにらみつける。
よし、とりあえず片目は潰した。
だが怒らせてしまったようだな・・・逃げてくれなさそうだ。
それにしても距離が近い。
偶然目に刺さったから避けやすくなっただろうが、依然として劣勢のままだ。
さっきの方法は次は通じないだろうし、この距離だと全力で走ってこられたらかわせないかもしれない。
どうにかしなければ・・・。
打開策を考えていると、自身の最初の状態を思いだした。
そうだ、飛べばいいんだ。空中ならさすがの猪も手が出せまい。
で、どうやって飛ぶんだ?
・・・。
最初は無意識で飛んでいたから飛び方が分からない!
考えている間に猪が地面を蹴って突進してきた。
飛ぶことを考えている場合じゃない!
くそ、こうなったらやけだ!
体勢を考えず思いっきり横に跳ぶ。
片目になり目測を誤ったのか、猪は幼女を掠めて胡桃の木に激突する。
激突の衝撃で生っていて胡桃が散らばる。
猪が胡桃の木に激突した瞬間、体中に激痛が走った。
うぐっ・・・え?なんで!?私は完全にかわしたのに!
あ・・・し、しまった!本体は木のほうだった!
こ、これ以上はまずい・・・何とかしなければ。
幸い猪は激突の衝撃でふらふらしている。
怪我の功名だ。
手元には鉄串が一本。
周囲には胡桃が散らばっている状況で何ができるか・・・。
攻撃魔術は使えないし、私の現状の体型で殴ったり蹴ったりしても大して意味は無いだろう。
それに、また本体である<私>を攻撃されるのはまずい。
遠距離から攻撃するしかない。
・・・こうなったら、やるだけやってやろう。
手元に残っている鉄串を猪に向けて投擲する。
刺さりはしたが浅い。
次に、近くにある胡桃を集めて猪に向けて投げるつける。
っ・・・うぅ・・・。
しかし、体に痛みが走り明後日の方向に飛んでいってしまう。
この隙に復活した猪が私に向けて突進を開始した。
まずい!く、来るな!
大きな猪が迫っていることに死の危険を感じ、恐怖を覚える。
目をつぶりながらがむしゃらに猪に向けて胡桃を投げつける。
おそらく猪が目前まで来ていたのが幸いしたのであろう。
胡桃があたった音がした。
次の瞬間、猪の絶叫があがる。
「グモァアアアアアア!?」
予想外の絶叫に驚いて目を開くと、頭に胡桃を頭にくっつけた猪が暴れている。
頭にくっついている胡桃が肥大かするのに比例して、猪の瞳から生気が無くなる。
そして徐々に勢いがなくなり、ふらふらと倒れて動かなくなった。
えっ・・・。
ど、どういうことなの・・・?
猪に痛い目を合わされたせいで若干切れており、
術を解除して姿を隠してやり過ごすことを思いつかなかった幼女。