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17話

狐好きなんです。




改9月14日

シャリーと過ごしていたらいつの間にか朝が来ていた。


・・・なんか私、いつの間にか朝迎えてること多くない?


昨日寝たわりには完全には回復していないので、魔力を回復するために魔物を狩る事にした。

魔力を回復させることが目的なので、クルミを生み出すことが出来る分身に移る。

服を着て、上からローブをはおり、串や魔石をローブにしまい、準備を整えた。

そしてシャリーに頼んで<私>の隠蔽をしてもらった後、シャリーを連れて魔物の気配がする北に進む。


そういえばあまり北の方には行ってないな。

いい機会だ。

そういえば精霊樹が在るのも<私>から北に一キロぐらいの場所だったか・・・。

お爺ちゃんにまだ精霊樹に近づかないよう言われてるから精霊樹を見れないんだよね。

でも、大精霊ってどんな精霊なんだろうか?

・・・ニンフみたいな性格じゃないといいなぁ。


しばらく進むと歪な魔力の気配が強くなり始めた。


気配が濃くなってきた。

そろそろ遭遇するかな?

・・・これは、熊かな?


―シャリー、魔物。


―はい。


シャリーに警戒するように伝えながらクルミを右手に持ち、左手に串を持つ。


魔力をたどって行く。

・・・いた。

3メートルはあるフォレストベアである。

フォレストベアはここ精霊の森では強い部類の魔物であり、ギルドではDランクと認定されている。

そのフォレストベアは何かを探すようにきょろきょろと周囲を見渡していたため、こちらに気づいた様子は無かった。

不意打ちで攻撃できそうだ。

慎重に近づく。

フォレストベアはまだ気づかない。


・・・十分。

喰らえ。


およそ20メートルほどまで距離を詰めたらクルミを投げる。

しかし、偶然こちらを見たフォレストベアは飛んでくるクルミに気づきかわした。

そして、攻撃してきた方を警戒しながら近づいてきた。


う~ん、しくじったなあ。

あれが決まれば倒せたんだけど、直接対決するしかないか。

まあ、シャリーがいるから負ける要素は無いんだけど。


シャリーに支援を頼んみつつ、クルミを用意する。


―シャリー、クルミで倒すから支援よろしく。


―分かりました。お願いします。


シャリーが魔術を発動する。


「【影縛り】」


シャリーが魔術を唱えると、フォレストベアの影がひとりでに動き出し、フォレストベアの体に纏わりついて拘束した。


「グガアア!?」


フォレストベアは暴れて影の拘束から抜け出そうとするが、影は容赦なくフォレストベアを拘束する。

次第に疲れたのかフォレストベアの動きが鈍った。

その隙に茂みから姿を現し、クルミを投げる。


「ガア?グアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」


クルミはフォレストベアにくっつき魔力を吸収し始めた。


「ガ・・・グッ・・・ァ」


フォレストベアはその巨体を地面に力なく横たわった。


―うん、倒した。シャリー、こっち来て。


―は、はい・・・。


私はフォレストベアからクルミを取った後、シャリーを抱き抱えクルミを分けあいながら食べる。


「あ、あの・・・少し、恥ずかしいのですが。」

「しゃりーはいやかな?」

「い、いえ!」

「それならもんだいないね。わたしなりのすきんしっぷのしかただから。」

「・・・誰に対してもこのようにやるのですか?」

「しゃりーだけだよ?そもそもしゃりーくらいのたいかくじゃないとむずかしいし。」

「そうですか。」


シャリーはかわいいなぁ。

まあいくら危惧しても実際問題体格の問題があるからな。

出来たとしても、私の大事な相手にしかこういうスキンシップなんてしないけど。

・・・そろそろ魔物狩りを再開するか。


フォレストベアを倒した後もフォレストウルフや森角鹿などの魔物と遭遇したため、クルミを投げつけて魔力を吸収しつつ倒した。

そうして得たクルミを食べ、ほとんど魔力が回復したため<私>のもとに戻ることにした。

その途中、フォレストベアと戦った場所で弱々しいながらも魔獣らしき気配があった。


うん?この魔物ではないけど地味に穢れを纏った魔力は・・・魔獣か?

でも、すこし変だ。

そういえばあの熊はなにか探してたな。

・・・まさか。


少し気になるので探してみることにした。

魔力を探ると茂みの中で気配がするので茂みを掻き分けて探す。

すると傷だらけの妖狐の親子がいた。


これは・・・あの熊か?

とりあえず安否を。

・・・まずい!


親狐のほうは既に息絶えているが、子狐のほうはまだ微かに息があった。

治療のため右手に魔石を持ち魔術を構築する。


「癒しの水を・・・【療水】」


魔石から水が滲み出てくる。

その水を怪我しているところにたらしていく。

療水は水属性の魔術で、傷口を洗浄しつつ治りを早くさせる効力がある。

慎重に傷を探しながら療水を与える。

大体傷に与えた後は、療水を飲ませる。

内外から与えることで効果を高める。


そういえば、あの草を使えば良いかもしれない。


「【創造・癒草】」


私は魔術でこの森に生えてる薬草を創造する。

この草はこの森にしか生息しておらず、偶に冒険者が採取しに来るので憶えていた。

この草の搾り汁を傷口に与える。


どれぐらい効くかは分からないけど、私ができるのはこれくらいか。

あとはシャリーの方が適任だろう。


―シャリー。この子の苦痛を和らげること出来る。


―はい。


―じゃあよろしく。私は親狐を埋葬するから。


―分かりました。ですが、気をつけてください。


―うん、分かってる。


シャリーが子狐に触れて魔術を使う。

すると、苦しそうにしていた子狐の息が整い始めた。

私はその横で親狐を弔うことにする。

親狐はきれいな黒い毛を持っていただろうが、今は血と土で汚れて見る影も無い。

構築した療水の魔術再構築しつつ、さらに魔力を籠めて水の量を増やす。

親狐に療水をかけながら丁寧に汚れを取っていく。

療水で血や土を洗い流したら別の魔術を構築する。


「【癒球】」


癒球は光属性の魔術で、光る球体を作り出して周囲に光を放つことで周囲を浄化する効力がある。

魔獣は魔物とは違い、死ぬと瘴気を生み出すため、浄化の必要がある。

2分ほどかけて周囲を浄化した後、癒球の魔術を破棄して親狐を埋める。

これでやるべきことは終わったので一息つく。


どんな相手にやられたかは分からないけど、可哀想だけど弱肉強食だからね仕方が無い。

それにしても私も治療のための魔術とか考えておいたほうがいいかな。

ホムンクルス達は生身だし、傷を負うこともある。

私は分身が怪我をしてもすぐに直せるから問題ないけど、ホムンクルス達のためにも医療は重要か。

回復魔術は作れるときに作ることにして、傷薬の作り方とかも憶えたい。

薬の方は今度街に行ったときにでも調べてみよう。


まだ気絶している子狐を抱きかかえ、シャリーとともに<私>の下に戻る。





<私>の下に着いたら、子狐を以前作った籠の中に街に行ったときカインから貰ったローブを毛布代わりにして横たえておく。


少しからだが冷えてるし、今日が峠か。

・・・すこし暖めたほうがいいな。

あまり得意じゃないけど・・・。


「【陽光】」


光属性の魔術に火属性を混ぜ、暖かい光を作り出す。

これで温まるだろう。

今から私はお爺ちゃんに手伝ってもらうために洞窟に向かう。

一応子狐が襲われないようにシャリーは<私>のところで待っていてもらった方がいいだろう。


―シャリーは此処でこの子を・・・あれ?


―どうかしましたか母様?・・・サラマンダー様?


―久しぶりだな。どうしたんだその妖狐は?


―・・・なんで私の頭の上に?


―そこに丁度いい足場があったからさ。


火の魔力を感じて周囲を探ろうとすると、私の頭に<私>から落ちてきたサラマンダーが着地してきた。


―そうだ、この子の治療できる?


―うん?・・・妖狐なら魔力を与えればある程度回復するぞ?こいつの状態ならリーユの魔力を籠めた魔石を周囲に置いておけば勝手に回復するだろう。


―あ、そうなんだ。ありがとう。


―構わないが・・・それでどうしたんだそいつは?


―拾った。母親は既に死んでる。


―そうか・・・まあ、よくも悪くも妖狐は環境に左右されるからな。面白くなりそうだが、気をつけろよ?人間に妖狐だとばれないようにしないと狩られるぞ。保護したんだからそれぐらいの面倒は見ておけよ。


―分かってる。常に私かシャリーが傍にいるようにする。それよりもサラマンダーはどうして此処に?


―単に異常がないか見て回ってるだけだ。此処に来たのはついでだな。


―そう。じゃあ私は言って来る。シャリー、後はよろしく。


―分かりました。


―一応人間には見つからないようにしろよ~。


私は妖狐の回りに魔石を置いてからサラマンダー達と別れて、洞窟に向かった。




―お爺ちゃん。


―・・・おお、来たか。


―・・・疲れてるようだけど大丈夫?


―問題ない。今行くから待っておれ。


―うん。


念話を切って洞窟から出ると、お爺ちゃんが待っていた。


―行くとするか。


―うん。





<私>の下に戻るとお爺ちゃんが籠の中に横たえられている子狐に気づく。


―妖狐か。


―うん。怪我してたから連れてきたんだ。


―そうか。見たところ子供のようだが、親狐はどうしたのだ?


―私が見つけたときにはもう死んでた。


―そうだったか。目が覚めたら襲い掛かってくるかも知れぬから用心はしておくのだぞ。


―うん。


―私が見ておきますので母様達は続けてください。


私とお爺ちゃんが話しているとシャリーが胸を張りながら宣言した。


―ありがとうシャリー。任せるね。


―はい!


シャリーの言葉に甘えつつ、ホムンクルス作りを再開した。


既に心臓と骨を作ったので今回は肉体を作ることにする。

昨日お爺ちゃんが作った宝石、宝珠というらしいのだが、それを使い何も無い真っ暗な空間、異界を展開する。

異界は私達が生きる世界の欠片で出来た世界らしい。

現在、異界には何も無く作業を進めることが出来ないので、まず異界に作業所を作る。

異界に何かを創る時は創るものイメージしながら宝珠に魔力を流せばいいそうだ。

シンプルに、広めの家を創造する。

外見は家だが、中は一部屋しかないのでかなり広い。

普通だったら耐震性が低い欠陥住宅である。

私とお爺ちゃんで手分けして床や壁に術式や魔方陣を描いていく。

苦労しつつも描き終えたら、お爺ちゃんが魔術で大人が入れるほど大きなカプセル二つと大きなタンク二つを作り出した。

複数の属性を同時に使う複合魔術で作ったようだ。


なんというか、こんな大きなガラスのカプセルを見ることになるとは思わなかったな。

しかも異世界で。

違和感がすごい。


私はカプセルの中に【療水】を構築した魔石をいれて、水を満たす。

ほとんどいっぱいになったら私の魔力を籠めた魔石とクルミを三つずついれて魔術を構築する。


「融かし混じりて新たな形を表せ・・・【融解混合】」


カプセルの中の療水と魔石、クルミが交わり私が望んだ物へと姿を変える。

ごちゃごちゃ言ってるが単純にホムンクルスのための培養液を作っただけである。

培養液の成分についてはお爺ちゃんが教えてくれえたので、配分を間違えないように集中する。


必要な成分は食べて覚えた!


カプセル内で融合が終えた後、しばらく気泡が出ていたが止まったので、今さっき描いた術の指定の場所に培養液で満たされたカプセルをお爺ちゃんが置く。

置き終えたらお爺ちゃんはカプセルにも術式と魔方陣を描いていく。

私は宝珠を使いテーブルを創造した後、そのテーブルに術式と魔方陣を描く。

描き終えたら、指定の場所にクルミと魔石を置き、陣の中心に製作した骨と心臓、倒したグランドドラゴンの肉と心臓、街で買ったさまざまな物を置いて、術を発動する。


「我は禁忌を、大罪を犯す者也。されど我は願う。新たな生命の誕生、我が血肉を分けし肉親の誕生を・・・【人体練成】」


テーブルの上に描いた術から光と稲妻が迸る。

危なそうなので、少し離れて様子を窺っていると、光と稲妻が収まった。

テーブルに上って見てみると、男女の肉体が出来ていた。


―お爺ちゃん出来たよ。


―待っておれ、今運び入れる。


そう言ってお爺ちゃんは男女のホムンクルスを持ち上げてそれぞれ別のカプセルの中に入れた。

そうしてから何かをつぶやくとカプセルに描かれた術が光り、ホムンクルスが水の中で体を漂わせ始めた。

それを確認してから、私とお爺ちゃんは最初に描いた術を発動させるために魔力を流した。

しばらくしてから床や地面が光りだし術が発動した。

最初に構築した魔術は家の中に構築した魔術を維持する魔術である。

ホムンクルスは培養液に約12ヶ月の間入れる必要があるので、この魔術が必要だったのだ。

約12ヶ月の間にいくつかやることがあるが、これでホムンクルスを創るのに一番重要な行程は終わった。

すべての魔術が正常に機能しているか確認した後、異界から出た。





異界から出たら、大きく息を吐き力を抜く。


「つ・・かれ・・・た。」


―大丈夫か?


―・・・なんとか。


「母様!」


シャリーが私に気づき近づいてくる。


「大丈夫ですか?」

「うん・・・。こぎつねは?」

「まだ眠ってます。それより一度休んだ方が・・・。」

「うん、すこしねむる。あと、よろしく。」

「はい!」


―わしは洞窟に戻る


―うん、じゃあね。


―うむ。


―・・・俺、空気じゃないか?


念話が切れたら徐々に目の前が暗くなっていった。






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