10話
街到着。
改9月12日
イーアスの街はエスタブリッシュ王国の最も東にある。
東を精霊の森、西を大型ダンジョン、南を魔物や魔獣が多数蔓延る山脈に囲まれており、精霊の森を挟んで存在する敵国グランバルト帝国と接している。
よく生きて抜いてきたなこの街・・・。
一応最前線の街で危険が多いがダンジョンを目的に来る冒険者が多く存在し、広大な精霊の森を挟んでいるのでグランバルト帝国もそう簡単に手を出せず、過去に幾度も侵略を退けた歴史がある。
門に近づき二人いる守衛のうちの一人に話しかける。
「こんにちは。」
とりあえず挨拶。
挨拶は大事だからな。
「やあこんにちは。可愛らしいお穣ちゃん。」
守衛は屈んで目線を合わせながら挨拶をかえしてくれる。
いい人だ。
そう思っているとお爺ちゃんが用件を切り出す。
「街に入りたいのだが。」
「何か身元を証明出来る物はありますか?」
「無いが、これを領主に届けてほしい。」
お爺ちゃんがそういいながら、手紙を取り出して手渡す。
私は街への入り方なんて知らないのでお爺ちゃん任せである。
そもそも身元を証明出来る物なんてないからな。
精霊だからね。
守衛は手紙を受け取ったら裏表を見た後お爺ちゃんに確認する。
「一応危険がないか確認してもよろしいでしょうか?」
「かまわない。」
「それでは少々お待ちください。」
そういいながら守衛は門の中に入っていく。
―お爺ちゃんってこの街の領主と知り合いだよね?その伝手は使えないの?
―使えないこともないが・・・あまり彼奴に借りを作りたくないのだ。めんどうになる。
お爺ちゃんは軽く嘆息しながら言った。
―どういう・・・?
ここの領主は一体?
1分ほどで守衛は戻ってきた。
「確認が終わりました。危険はありませんでした。しかし、領主様の下に届くのは明日だと思われます。なので明日まで仮の滞在証が必要になりますが、どうしますか?」
「仮滞在証を発行してほしい。」
「分かりました。それではついてきてください。」
守衛に連れられて門の中の詰め所に入る。
「失礼ですが、文字の読み書きは大丈夫ですか?」
「問題無い。」
「だいじょうぶ。」
私はお爺ちゃんに文字を教えてもらっていたので頷きながら答える。
守衛は少し驚いた表情をした後、すぐに表情を戻して続ける。
「それではこの紙に必要な事項を記入した後、こちらの水晶を5秒ほど見つめてください。水晶を見た後はこちらの用紙に書かれている注意事項を黙読し、その後声に出して読んでください。そうしたら仮通行証が発行できます。」
守衛に言われたとおりにやっていく。
注意事項にはこの街では犯罪行為はしないなど基本的にやってはいけないことについて書かれていた。
水晶を見た後に街で守ってもらいたいことを声に出して宣誓させることで簡易契約を結ぶ魔術のようだ。
すべて終わったら、守衛が「少々お待ちください」といいながら出て行った。
そして10分後に二つタグを持ってきた。
「こちらが仮通行証になります。肌身離さずもっていてください。それと基本的に仮通行証は隠さず目立つ部分に付けてください。それではイーアスの街にようこそ!」
無事に街に入ることができた。
それにしても厳重だな・・・。
まあ、それだけこの街は危険が多いということか。
しかし仮滞在証を付けている者は少なく、とても目立つので、手紙の返事が来るまで守衛に勧められた宿で引き篭もることに決めた。
そのため七日間滞在することを伝え、二人部屋を借りた。
値段は食事つき風呂つきで大銀貨5枚と中銀貨6枚である。
この世界の通貨は小銅貨(1円)、中銅貨(10円)、大銅貨(100円)、小銀貨(1,000円)、
大銀貨(10,000円)、小金貨(100,000円)、大金貨(1,000,000円)がある。[()内は日本円換算]
とりあえず手紙の返事が来るまで外出はせず、魔術の練習をしたり、対ドラゴン用の魔術を考えたり
していた。
私は魔術を維持しながらお爺ちゃんに聞く。
―そういえばお爺ちゃん。
―なんだ?
―お金はどこで手に入れたの?精霊はお金を得る手段は限られると思うけど・・・。
―ああ、金はギルドからじゃな。
―え?・・・まさか、窃盗・・・?
―単にわしとこの街のギルド長の間に契約があるだけだ。金は見返りで得ておる。
―あ、そうなんだ。ごめんね。
―かまわん。それにしても、お主はどうでもいいことを気にするな・・・。今まで生きてきたが、同じ精霊に金の入手手段について聞かれた事はなかったぞ。
―え!?いや、なんとなく気になっただけだよ。あはは・・・。あっ!?
―何をやっとるんじゃ・・・。
動揺で術が暴走してしまったが、お爺ちゃんが抑えてくれたので何とか騒動にならずに済んだ。
翌日、手紙は領主の家令が届けに来てくれて、一緒に門で対応してくれた守衛が来ていた。
手紙の返事と共に守衛が正式な滞在証も渡してくれて、気兼ねなく街を出歩くことが出来るようになった。
手紙には領主が次の日の午後3時に直接会いたいと書いてある。
お爺ちゃんが手紙を拝見した後、家令にその予定で問題ないと答えた。
用事が終わった家令と守衛は去っていった。
正式な通行証ももらい、午後から出かけられるようになった。
なので今日はギルドに向かい冒険者登録する予定だ。
昼食を済ませてからギルドに向かう。
ギルドか・・・ファンタジーの定番だな。
それにしても、冒険者ってだけあっていろいろ旅をするのが多いらしいけど・・・密偵とかも混じってそうだな。なる分には簡単らしいし。・・・一応、気をつけておこう。
ギルドは街の中央区にある。
ギルドに向かう途中、私の髪の色が珍しいのか多くの視線を感じながらもギルドにたどりついた。
建物は二階立てで周りの建物と比べるとかなりの大きさである。
視線から逃れるようにギルドの中にはいる。
こんな注目されるとは・・・帽子とか麦藁帽子が欲しい・・・。
中は広く半分は酒場になっており、もう半分は受付や掲示板が置かれている。
中には100人ほどの人がいた。
ギルド職員が20人ほどで、残り80人は冒険者のようである。
ほとんどの冒険者はダンジョンなどに行っているのだろう。
フィンとともに受付の方に向かう。
私たちに気づいた栗毛の受付嬢が対応してくれる。
「ご用件は何でしょうか?」
「ギルド長に会いたい。これとフィンという名前を出せば通じるだろう。」
そう言いながらお爺ちゃんは本を渡す。
「・・・かしこまりました。少々お待ちください。」
受付嬢は本を受け取って奥に消える。
―あの本は?
―昨日言った契約に関わるものだ。森の魔物の状態を記してある。
―へえ・・・。でも、どうして?
―稀に魔物たちが活性化して、群れを成すときがある。これを〈波〉と言うが、波は多くの命が集まっているほう、街などに向かう場合が多い。特にイーアスの街は三方向から〈波〉に襲われる可能性があるため、わしが精霊の森の魔物の動きを調べ、それをまとめているのだ。
―そうなんだ。精霊は襲われないの?
―魔物よりも精霊のほうが強い。
―あ、うん。
念話で雑談していると、受付嬢は戻ってきた。
「お待たせしました。こちらにどうぞ。」
受付嬢は私たちを先導して、ギルド長がいる部屋まで案内してくれた。
「失礼しますギルド長。お客様を連れてきました。」
「入ってくれ。」
栗毛の受付嬢に促されながら中に入る。
中には初老の男性がいた。
「イリス、案内を任せてすまないな。受付に戻ってくれ。」
「分かりました。失礼します。」
栗毛の受付嬢、イリスはそう言いながら部屋から出て行った。
「大分老けたようだな、カインよ」
「そういう貴方は変わりませんな。」
そう言いながら、ギルド長であるカインは苦笑する。
「しりあいなの?」
「30年ほど前に魔術を教えた。つまり弟子だ。」
「そちらのお嬢さんは?」
「精霊だ。いろいろと事情があって詳しく話すことが出来ない。だがこの子はたびたびこの街に来る予定だ。この子に何かあったら出来る範囲でいいから力を貸してほしい。」
「ふむ、そうですか。」
カインは私を見る。
「よろしくおねがいします。」
とりあえずお願いする。
カインは微笑みながら「わかりました。引き受けましょう。」と請け負ってくれた。
「本題に移るとしよう。街の南側にある山脈にグランドドラゴンがいたな?そのグランドドラゴンを倒す許可が欲しい。問題はないか?」
「グランドドラゴンですか?なぜ急に・・・。あのグランドドラゴンは・・・倒す許可なら出せますね。」
カインは引き出しから取り出した資料を見ながら答える。
「ドラゴンの素材が必要になったからだ。基本的にリーユが戦うが、指名依頼としてCかDランクの冒険者に護衛を頼みたい。あまり目立ちたくないからな。その冒険者にドラゴン討伐の功績を擦り付ける。出来るか?」
「可能ですが・・・いいのですか?」
「かまわん」
擦り付けるって・・・なんか嫌な感じだよね。
譲るって言えば良いのに。
結局言葉が違うだけで、意味は同じな気がするけども・・・。
「それではいつごろ討伐に行く予定ですか?」
「四日後を予定しておる。」
「分かりました手配しておきましょう。」
「それと、この子を冒険者登録してほしい。」
「分かりました。ではこの書類に記載をお願いします。」
とんとん拍子に話が進むので置いてきぼり感がすごい。
というかギルド長そんな簡単に許可だしていいのか・・・?
グランドドラゴンだぞ?
私の見た目は幼子だぞ?
結構このギルド長・・・やばいかもしれない。
あと2話くらいでドラゴン戦予定。
この世界の通貨
小銅貨(1円)、中銅貨(10円)、大銅貨(100円)、小銀貨(1,000円)、
大銀貨(10,000円)、小金貨(100,000円)、大金貨(1,000,000円)がある。[()内は日本円換算]




