まぐろがやって来た。
おなかいたい
「父ちゃん、まぐろだぞ」
ある日娘のだぞみ(五歳)が俺に話しかけてきたんだ。
「まぐろ?何を言ってる。うちは金がないから食えないんだよ」
「食う?何を言っとるのだ?飼うのだぞ」
「何を言ってるってこっちが聞きたいわ」
膨れた顔の、ロングヘアーの少女は後ろを指した。そこにはいかにもぬいぐるみです、というふうな水色の魚がいた。魚にしてはふわふわしている。眼は無気力。口は一本線。そして、
「まうー」
鳴く。
「飼ってもいいか?」
「いや、これまぐろじゃないだろ‼」
「まぐろだぞ。魔界からやって来ただぞみの使い魔なのだ」
だぞみは気に入ったようにまぐろを抱き抱えた。
「魔界ねぇ……」
ピンク色の空、水色の地面。ここが魔界のようだが。
「だぞみにとっては故郷だぞ」
だぞみとその妹のおちびは、俺がここゾミネシアに来てからすぐに拾った姉妹だ。外見は人間だが、ゾミネスという生き物で、彼女らは人間ではない。使い魔を必要としているのは話に聞いていた。しかしまぐろ……?
「猛獣じゃないとダメか?」
「いや、お前がいいなら飼ってもいい」
そして、だぞみはまぐろを飼うことにした。
おしまい
まぐろ食えない。