リリス・シャロ退室後に……
「良かったのですか、お嬢様?」
「ん?何がじゃ?」
リリスとシャロが準備のため理事長室を出て行った後、ハヤテはディアーチェに飲み物を用意しつつ、気になった事を訊ねた。
「いえ、この催しの景品、彼女たち研究会にとっては、不可欠なものと思われるのですが」
「その認識で間違っておらんよ。ま、インテリジェントデバイスの作り方は教えておる。あとは自分たちで、気づけるかどうかだ」
そう言うとディアーチェは、ハヤテの淹れた紅茶に口をつける。
「まったく、お嬢様はお人がお悪いようで……」
ハヤテは手作りのクッキーを机に置く。
心中ではディアーチェによって焚きつけられた人たちに、同情していた。
がすぐに、もう一つの気になっていた事についてを訪ねる。
「それはそうと、いつまで彼女を『トリアイナ』として扱うのですか?彼女は姫であり、巫女です。『執行者』のふりをさせるのは危険では?」
「わかっておるよ。しかしな、彼女自身が望んでおるしなぁ」
ディアーチェはハヤテの疑問を、出されたクッキーを齧りつつ答える。
「あれでは、心が擦り切れていくだけかと。そんな事をしなくても、お嬢さまが手を貸しさえすれば、万事解決するではありませんか」
「スマンがそれは出来ん。それをすると我は、禁忌を犯す事となる」
「…担当外世界への干渉、ですか」
「うむ。主を含め信頼したものに話したと思うが、我はこの第二世界の管理者。
上が許可しない限り、他の世界には干渉してはいけないとなっておる。
彼女を助けた件は、緊急ゆえのものだったから、上には許してもらえたのだが……代わりに、本物を調査のために派遣する事になった」
ハヤテは空になったディアーチェのカップに、再び紅茶を注ぐ。
そして今度は、やめさせない理由を訊ねた。
「なら、仕方ありませんね……でも、辞めさせない理由にはなりませんよね?」
「我が言っても、どうにもならんと思うぞ?彼女は力を求めておる。たとえ、滅びてしまったとしてでも、取り戻そうと頑張っておる。だから本来使えぬ、神の力を扱えておるのだろう。
それに如何やら、マキナに目を付けたようだから、彼女も向かっていることだろう」
「……ハァ、分かりました。この件はこれ以上意見はしません」
「ん?よいのか」
「えぇ、お嬢様は『協力はさせるが、干渉はしない』を貫くようですからね」
ディアーチェにはディアーチェなりの考えがあるのだろう、そう考える事にしたハヤテは、これ以上意見する事をやめるのであった。