合わない二人
「お前こそ、よく気付いたな?初見でそうそう気付けるもんじゃないだろ」
目には見えないが声は聞こえる。
おそらく、幻影系統の魔法だろう。かなり強力な魔法らしい。私の『目』をもってしても、看破が難しい。
「もぅ、セリちゃんって呼んでよ。わたし、マキちゃんとは気が合うと思うの。だって、あなたも所有者でしょ?仲良くしようよ」
「い・や・だ!そもそも、プレースタイルが全然違う」
「それでいいのよ。プレースタイルは、人それぞれだもの。非合法であっても、この世界では合法。それはゲームマスターが言っていた事よ」
「確かに空白な世界だとは言っていた。けどだからと言って、人として考えるなら、やっちゃいけない事だろ!」
「それが何?結局はゲームなのよ。私たちが楽しければ、些細な事じゃない」
「ゲームであって、そうじゃない。この世界のNPCたちと話した事はある?」
「住人?モブと話す訳ないじゃない?それがどうかしたの?」
「モブであっても、一人一人が意思を持っているんだ。非合法な行動は、彼らの生活を壊しかねない」
「あり得ないわね。それだとNPC全員に、AIが搭載されている事になるじゃない。仮にそうだとしても、AIたちの中にも非合法な事をする人はいるはず。そうなれば、私たちがしていたって問題ないじゃない」
「ならそろそろ、分かったんじゃないか?いくら勧誘したって無駄だって事が」
「そうね、あなたの事は、諦めるわ。それに、そろそろ決着をつけなくちゃね」
長い間話したおかげで、「目」がだいぶ捉える事に慣れてきた。
人影を捉えた場所に向けてナイフを投げつける。投げられたナイフは、壁に突き刺さる。
しかし今度は部屋全体が揺らぎ、やがてナイフが刺さった場所には、人影が浮き上がる。
「えっ」
幻影は解けた。けれど、ナイフが刺さった相手はマキナでは無かった。
投げたナイフは、クロムウェル陣の使役する、傀儡に刺さっていたのだった。
セリアの『神の目』は、マキナの魔法の発生源、魔導書を捉えていた。幻影が解けた事から、それは間違いないはずだった。
セリアは傀儡を確認すると、傀儡と一緒に何かが刺さっている事に気付いた。
「これは……本のページの一部?」
部屋の中を確認するが、マキナと雪那の姿は見当たらない。
代わりに部屋には、傀儡たちが居るだけ。
「どうやら、逃げられたようね。まあいいわ。次あった時は、私が勝つもの」
そう言うと、セリアも転移アイテムを使い、この場を離脱して行った。