12話
2006年5月18日
五島列島沖
戦艦長門戦闘指揮所
「敵誘導弾接近中、数40!」
ある電測員がそう言うと所内は一気に緊張に包まれる。
艦長で大佐の俺、戸村真の額は汗で覆われ、その内心は焦りと恐怖感で支配されていた。
(これを全て迎撃するのは不可能に等しいな……………)
この手の攻撃方法を米海軍は飽和攻撃(※1)と呼んだが、これは旧ソ連海軍が米空母/戦艦機動艦隊を一気に殲滅する手法として編み出したものであり、それに対する米海軍の恐怖心がイージスシステムを生み出したのである。
そして我が艦隊にも女神の目を持つ巡洋艦金剛が組み込まれ、更にはこの長門と僚艦の巡洋戦艦那智はその巨大なRCSで味方艦へ向かうミサイルを吸引し、万が一に自分にミサイルが当たったとしても恐竜の様な皮膚で跳ね返すので心配には至らないだろう。
もっともその前に落とせれば良いとは思うが……………
「誘導弾斉射始め!」
司令がそう言うと長門及び那智と金剛のVLSからSM-2ERが放たれ、島風、浜風、沢風からSM-2MRが放たれ、放物線を描いて目標へと飛翔する。
……………それからしばらく静寂と緊張感が戦闘指揮所を支配する。
「トラックナンバー1~5、8、9、12、13の撃墜を確認!残りは依然として接近中!」電測員がそう言うと第二射命令が降り、計8発のSM-2が目標へ向けて飛翔する。
続いて4発が撃墜されるも残った23発は尚も近づく。
短射程誘導弾と多数の中口径砲の対空砲弾で形成される弾雨に加えて、空中にはチャフが舞い上がり、水柱や水飛沫が周囲を覆う。
強烈な弾幕で約11発のミサイルを撃墜するも残りが遂に命中圏内に入ると20mm機関砲弾の雨霰が空を覆い尽くす。
「瀬戸雪航行不能!」「沢風大破!」「曙、格納庫に被弾するも戦闘続行は可能!」など次々に被害報告が入る。
「被害が無い艦は全艦対艦ミサイル発射急げ!」
司令がそう言うと敵艦隊の1隻1隻に照準が合わさる。
そして火器管制装置の対艦ミサイル関連のボタンが一斉に緑へ変わり、オールグリーンと素人目でもわかる表示になる。
「用意………撃て!」
艦長である俺、戸村真がそう言うとこの長門の4連装対艦ミサイル発射装置から対艦ミサイルが4発飛翔する。
更にそれに続くかのように他の艦からも対艦ミサイルが韓国艦隊へ向けて放たれる。
一方、金武軍大統領は日本側の戦意喪失の原因となる山陰地方への爆撃、すなわち本土爆撃を実施するためにその発進基地となりうるある程度の大きさの飛行場がある隠岐諸島制圧を命じ、それを旧北系の上陸工作員と旧南系の豊富な兵器、人員搭載量を誇るペンサコラ級揚陸艦天馬2と巡洋戦艦寧辺及び2隻のKDX-2級及び1隻のギアリング級駆逐艦と共に極秘裏に出航させ、苦労した末に何とか日本が張っていた細かい潜水艦哨戒網を事前のP-3CKによる支援で突破し、何とか隠岐諸島へと到着したのが5月20日の午後11時25分。
5月21日に時が変わるとすぐに制圧を開始したのである………
※1 飽和攻撃=Total Strike
読んで字の如く。旧ソ連が冷戦中に米海軍艦隊を殲滅するために編み出した手法。
具体的に言うと大量のミサイルを航空機や水中の潜水艦、水上艦から同時に発射して、米海軍のレーダーシステムを飽和させて一気に突破すると言う攻撃方法。
これに対抗すべく米海軍はイージスシステムと優れた探知能力を持つ高性能戦闘機F-14トムキャットと長射程ミサイルAIM-54フェニックスを生み出したとも言われる。