9話
2006年5月14日午前4時前
日本海中央部
潜水艦満潮艦内
「ソナー、反応はあるか?」
暗く赤い非常灯が灯る宇宙船に似た部屋で艦長の中佐である俺、松島征一が聞くとソナー手は「はい。微かですが走行音が水上から聞こえて来ます……………」と続き、すぐに艦長は「よし。潜望鏡深度まで浮上。逆探知装置展開!」と続き、満潮はゆっくりと浮上し、逆探知装置を水面に上げ、周囲の電波を受信し、それを逆探知装置用のスクリーンにそれを表示する。
「…………反応あり!」しかめた顔で航海長がそう言うと俺はすぐに浮上命令と一瞬だけの水上レーダーの使用を命じる。
そしてレーダーが敵の位置をするすとすぐに急速潜航を命じ、満潮は再び水中に姿を消す。
以前も述べたが潜水艦は究極のステルスとも言える存在であり、レーダーを使用した以上、すぐに移動しなければ敵に狙われる。なので俺はこの満潮を日本海の深く暗い海中へ身を隠す様に命じる。
徐々に二酸化炭素濃度が濃くなる潜水艦特有の空間で全員息を殺して身を潜める。
上にいるであろう敵艦隊から幾度も放たれるコーン、コーンと言うピンガー、その音は任官してから潜水艦乗りを続けている俺ですら多量の汗をかき、椅子に座り続けて、息を殺している。
しばらくすると敵駆逐艦は遠ざかり、ソナー音は聞こえず、推進機の音だけが聞こえてきた。
だが俺は敵が罠を仕掛けたのでは無いか?何故なら前日、この本艦と同じく哨戒に出ていたやや旧式の哨戒潜水艦夏潮が駆逐艦のソナー音が聞こえなくなった瞬間にASROCによる集中雷撃で撃沈されている事が長距離ソナーで確認されているからだ。
俺はしばらく間をおいてから罠でないことを確信し、「全管一斉斉射!誘導法式、アクティブホーミング。ケーブルは発射後すぐに切り離せ!」と命じる。
すると6門の魚雷発射管から89式長魚雷が韓国海軍東海艦隊へと向けて発射され、それと同時に俺は「急速転舵!!面舵いっぱい!!」と叫び、艦は一気に右へと舵を切り、潜水艦支援施設が新設された直江津港へと向かったのである。
無論、非誘導魚雷が鹵獲されると恐ろしいので、時限信管をセットして20秒後に自爆するようにセットし、こちらの推進音などを掻き乱す音響デコイの役割も果たした。更に幾度かの潜水艦作戦で韓国軍は佐渡島への水上輸送を断念、航空機での輸送で装甲車を運ぶも、運べてジープや兵員装甲車であるのに対し、日本側は2日後の上陸時に強襲揚陸艦山城やその随伴輸送艦大隅搭載のLCACによるピストン輸送で74式戦車や90式戦車を投入し、兵員装甲車程度の韓国軍を一気に蹴散らしたのである。
因みに満潮による海洋航路遮断作戦の日は日本側にとって最初の本格的な反撃作戦である佐渡島奪還作戦要綱書が出来上がり、それが認可された日である。