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朱鴉のツバサ  作者: 織姫ナナ
第一章 朱鴉の産声
8/21

変革の日(2)

◆◆◆◆◆



 その魔法は、すごかった。あまりにもすごすぎて何がすごく、底が知れない。

 赤黒い光が僅かに漂う空間の中心で、忠則は呆然と空を見つけている。突然手に入れてしまった力は、あまりにも強大すぎて、忠則の想像を遙かに超えていた。



『ちょっと、何ボーっとしてるのよ!』



 そんな忠則に激を飛ばす少女の声があった。それを聞いて、忠則は我に返る。



『さっさと立って! もしあいつが仲間を呼んできたら、余計に大変になるから!』

「あ、ああ……」



 言われた通りに立ち上がる。忠則はおぼつかない足で、その場を離れようと足を踏み出していった。だが、足を踏み出した瞬間、忠則の身体に異変が起きる。急激に襲ってきた疲労感に、脱力感。思うように力が入らず、呼吸すらままならない。

 おかしい、と思いつつ足を踏み出していく。だが、それは三歩踏み出したところでできなくなった。



『ちょっと!』



 忠則はゆっくりと倒れた。碧は思わず忠則に声をかけようとする。しかし、すぐに忠則がどんな状態なのか気づいてしまった。

 使い慣れていない魔法。心得も代償もわからないまま使ってしまった魔法。だからこそ忠則は、ペナルティを受けていた。



『しっかりしなさい! 食べられちゃだめよ!』



 碧が放った言葉の意味を、忠則は理解できない。確実に、急速に減っていく体力。懸命に抗おうと手に力を入れるが、身体を起こすことができない。



『こんなことって――』



 碧は後悔した。緊急事態だったとはいえ、無理に忠則に魔法を使わせたことに。このままでは忠則は自分の魔法に飲み込まれてしまう。それだけは避けなければならない。

 碧にも危機が迫る中、碧は忠則にあることを言う。



『支配権を放棄しなさい。早く!』



 だが忠則はもう碧の言葉すら理解できなくなっていた。闇に飲み込まれていく意識。弱まっていく呼吸と、鼓動。死を迎え始めた忠則に、碧が何を言っても無駄な状態だった。



「こりゃすげぇ」



 そんな時、一人の男がやってくる。その男は赤黒い光が支配する空間へと、躊躇いなく足を踏み入れた。ゆっくりと倒れている忠則に近づく男は、忠則の顔を覗きこんでこんなことを言い放つ。



「よ、嫌われ者さん」



 当然、忠則はその言葉自体理解できない。飲み込まれていく意識を、懸命に繋ぎ止める忠則。ただ必死に、生き延びようとしていた。そんな忠則に、金髪の男は問いかける。



「お前はなんで、生きたい?」



 金髪の男は、答えを求める。それに対して、忠則は答えた。



「死にたく、ない……」



 言葉を理解できない状態の忠則。金髪の男が何を言ったのかもわからなかった。だから懸命に、助けを求める。



「こんな、ところで――死にたく、ない!」



 限りある命。それを感じながらも、迎えようとしている死。死んだらどうなるのかわからないからこそ、恐怖が心を支配する。

 金髪の男はそんな忠則を見下ろしていた。明らかに同情したような目をしている。だが助けてくれようとはしない。まだ、何かを待っているようだった。



「俺は、俺は、このまま死にたく、ない」



 忠則は振り絞る。わだかまりを、感じていた後悔を。



「あいつに、謝っていない。あいつの想いに、答えてない。あいつと、まだ馬鹿をしていたい。やらなきゃいけないことも、やりたいこともたくさんあるんだ。だから――死んでたまるか!」



 その言葉に、金髪の男は大きなため息を吐いた。そしてゆっくりと立ち上がり、赤黒い光を見る。



「情に脆いな、俺は」



 持っていた白刃麗刀を抜く。そして、その刃を忠則に向けた。



「おいガキ。今回は特別だ。お前を助けてやる。だが、この代金は高いぜ? ツケ払いとして受け取っといてやるから、感謝しやがれ」



 金髪の男は、ゆっくりと白刃麗刀を振り上げる。何も反応を示さない忠則。それを見つめながら、一気に振り下ろした。重々しい音が響き渡る。それと同時に、忠則は意識を失った。


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