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朱鴉のツバサ  作者: 織姫ナナ
第一章 朱鴉の産声
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変革の日(1)

 空が一瞬だけだが、赤黒く染まった。それがどういう意味なのか、人々は知らない。だが、便利屋は違った。



「なんでまた、物騒な魔法がここにあるんだよ」



 便利屋は回収した刀を逆手に持って走る。揺れるツンツンに立った金髪。浮かび上がっていたやる気のない瞳は一変し、どこか力強かった。懸命にコンクリートの大地を蹴り、裏通りを駆け抜けていく便利屋。だが、それを邪魔する者が現れる。

 目の前に黒い球体が出現した。それは一気に膨らみ、便利屋を飲み込もうとする。だが便利屋は、そうなる前に宙へと逃げた。



「さすがだね、金次郎さん」



 だが飛んだ先には、褐色の少年が待ち受けていた。手のひらに存在する黒い球体。それを軽い音と共に解き放つと、まっすぐ便利屋の身体に飛んでいった。



「でも、その体勢だと避けられないでしょ?」



 便利屋は狂った笑みを浮かべる褐色の少年を睨みつけた。そして持っていた刀を躊躇いなく振り切る。黒い球体が膨らむ直前、刀はそれを斬り裂いた。真っ二つに割れたそれは、音もなくしぼんで消えていく。

 便利屋は刀を振った勢いで回転した。そして、左手に存在しなかったはずの刀を出現させ、褐色の少年に刃を突撃させる。だがその刃は届かない。褐色の少年の首に襲いかかる寸前で、黒い球体が守るように現れ刃を食い千切ったのだ。

 それを見た便利屋は、即座に褐色の少年の腹部を蹴る。後ろへと飛ばされた褐色の少年は、体勢を立て直して着地した。わざとらしく、おっとっと、と言葉を溢して降り立った褐色の少年は、余裕のある表情で便利屋を見つめる。



「へぇ、すごいね。あの時とは比べ物にならないくらいに、頼り甲斐があるよ」

「何の用だ、パーチェ。俺は今、非常に忙しくてイライラしているんだ」



 パーチェと呼ばれた褐色の少年は、嬉しそうに笑みを浮かべた。だがすぐに、笑顔の仮面を被り、便利屋にある忠告をする。



「底辺の魔法使いでありながら、そんなことが言えるんだ。金城金次郎さん?」



 その言葉を聞いた便利屋こと金次郎は、忌々しく舌打ちをした。持っている刀の刃を、パーチェに向ける。そして、怒気の孕んだ言葉を放った。



「退け。さもないと、ぶっ殺すぞ」



 その言葉に、パーチェは嬉しそうに、だが禍々しく狂った笑みを浮かべた。まるでその言葉を待っていたかのような、そんな表情だ。



「やってみてよ。今の僕は、あなただけなら余裕のはずだから」



 一触即発の状況。少しでも動けば、殺し合いが始まる雰囲気が立ち込める。互いに距離を伺いつつ、攻め込む機会を見定めていた。



「あまり利口でないな」



 だが、その声が二人を止める。振り返るパーチェ。瞬間的に大きな手が顔に迫り、どうすることもできないまま硬い地面に叩きつけられてしまった。

 その光景を見ていた金次郎は、呆れたような素振りをしながら構えを解く。そして、パーチェを地面に叩きつけた大男に言葉をかけた。



「力自慢のお前が言えることか?」



 皮肉を言われた大男。だが顔はやせ細っており、とてもそうは見えなかった。しかし、パーチェは起き上がることができない。じっくりと、確実に地面へと押し付けられていく頭。どうにか脱出を図ろうとするが、痛みが支配して上手く手を払うことができない。



「この力は邪魔だ。金次郎、お前にやろう」

「いらねぇよ。それより、頼まれてたものを回収しておいたぜ? アルベント」

「気が変わった。それはお前にやる」

「はあ? こんないわくつき、いらねっての!」

「だが、それに助けられただろ?」



 金次郎はアルベントの言葉に言い返せなかった。悔しそうに頭を掻き、唸る。

 その姿を見て、アルベントはやれやれと首を振った。



「お前は危なっかしい。だからお守りにしろ」

「妖刀と言われたこいつをか? いくらなんでも冗談がすぎるぜ」

「白刃麗刀は妖刀ではない。現に、お前には副作用が出ていないだろ?」



 大きなため息を吐く金次郎。わかった、としぶしぶ言葉を吐き出して、アルベントの意見を聞き入れる。



「さて、そろそろ離れるぞ」



 その言葉に、金次郎は素直に従った。二人の間に出現する黒い球体。それは一気に膨れ上がり、存在する建物の壁などを容赦なく飲み込んでいった。

 だが、目的であるアルベントと金次郎はそれから逃れている。殺すことができなかった代わりに、パーチェはすぐに起き上がり、二人から距離を取った。



「さすがに二人がそろうと、こっちがきついや。だから、逃げさせてもらうよ」



 黒い球体を乱立させる。だがそれは二人を狙った攻撃ではない。取り囲まれるが、膨らむことはなかった。二人は下手に動くことしない。それを確認したパーチェは、堂々と背を向けて逃げていたのだった。

 ゆっくりと消えていく黒い球体。完全に消滅したことを確認し、金次郎は動き出す。



「ったく、やんちゃになったもんだ」

「若いお前を見ているようだ」

「俺はまだ二十代だ。ったく、てめぇも俺と同じだろうが」



 金次郎はぼやきながら進んでいく。するとそんな金次郎を、アルベントが呼び止めた。



「なんだ?」

「何をしにいく?」

「あ?」

「お前は、探究するのをやめた人間だ。そんな人間が、危険を犯す必要があるか?」



 金次郎は一瞬だけ押し黙った。だがその一瞬が過ぎると共に、言葉を吐き出す。



「何、野次馬根性を出しに行くだけさ」



 アルベントはそれ以上追求することはなかった。足を踏み出していく金次郎。そこに存在するかもしれない魔法を、確認するために進んでいく。


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