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朱鴉のツバサ  作者: 織姫ナナ
第一章 朱鴉の産声
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エピローグ

 忠則は様々な人達から怒られた。最初に怒ってきたのは、姉である。きつい一言と共に頬をビンタされた。

 次に怒ってきたのは、武光だった。朝の出来事で碧を彼女と勘違いしたらしく、それで文句の言葉を並べられる。同時に沙耶にも怒られた。心配と嫉妬が混じったおかしなものになっていたが、忠則は容赦なくビンタを喰らった。

 そして、最後に怒ってきたのは担任である望月だった。



「この馬鹿! どれだけ心配したと思っているんだよ!」



 まるで家族のように怒ってくるそれは、とても気に入らない。だが、忠則はそれを乗り越えることにした。今のままでは、何もかもダメになってしまう。だから、忠則は望月と向き合った。



「ごめん……」



 気に入らなかった。でも、どうして気に入らないのかは、わかっていた。

 強くて、カッコよくて、でも弱い姉。それを守るのが、自分だと忠則は思っていた。しかし、姉は一人の女性だ。血の繋がる家族ではなく、他人から自分を理解してくれるパートナーを見つけ出したのだ。

 忠則は姉が好きだった。だからそれに、裏切られたと感じていた。当然、望月がそれを知ることはない。ただのエゴに、そして子供な自分に忠則は苛立ち、八つ当たりをしていた。

 しかし、望月はそんな忠則を受け入れる。そして、力強く身体を抱きしめた。



「もう、勝手なことはしちゃだめだよ?」



 忠則は素直に、その言葉に頷いた。

 少しずつだが、忠則は成長している。そのことを、碧は感じ取った。だが、碧にもやらなければならないことがある。



『まだ、詩はあるんだ』



 おそらくこの詩は完成していない。万が一のことを考えて、フィアがバラバラにしたのだろう。ならば探し出さなければならない。あの男よりも早く。

 全てが終わった訳じゃない。これから全てが始まるのだ。だからこそ、碧は長い戦いを覚悟した。

 そしてもう一人、決意を固める男がいた。



存在しない存在(ゴースト)か」



 (つなし)が残した遺言。その約束を叶える時がきた。だから金次郎は、決意する。



「守ってやるさ。お前のためにも」



 運命は、着実に訪れていた。そして、それぞれが立つ岐路もまた、同じようにやってくる。

 終わりなき旅の始まり。その詩に記された巡り合わせのように。



◆◆◆◆◆



「ヴィンセント。回収できたのか?」



 都心に存在するビルの一室。そこに呼ばれた男が、曇った顔をして問いかけに答えていた。



「いえ。残念ながら、パーチェは回収に失敗したようで」

「ほう? なぜ失敗した?」

「朱蒼の法則を扱う少年に、奪われたと。それに金次郎も関わっていたようで――」



 問いかけた男は、その言葉に眉を潜ませた。理由は二つ。一つは朱蒼の法則が存在しない存在以外に扱えるのは、自分しかいないこと。二つは金次郎が無駄な足掻きをしていることだ。



「そうか。それは面倒だな」

「今後、私自身が現場に向かい、指揮を執ります。そうすれば――」

「お前如きで、奪い返せるのか?」



 ヴィンセントは言葉が詰まった。だが、何かを言わなければ身が危うくなる。ゆえに、嘘をついた。



「必ずや。私にはその力があります」



 その言葉を聞いた男は、鼻で笑った。



「期待しているぞ、ヴィンセント」



 嘲るような言葉。ヴィンセントはそれに、怒りを覚えながら頭を下げた。

 動き出す歯車。それは、容赦なく忠則の平穏を壊していく。


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