変革の日(5)
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「あなたは、世界をどう思う?」
気がつくと、そこは箱庭だった。忠則は向かい合う少女に顔を向けた。白い髪に翡翠色の瞳。赤いワンピースを着た碧は、真剣な眼差しで忠則の言葉を待っている。
「どうって、言われてもなぁ」
世界のことなんて特に何も考えていなかった忠則は、回答に困った。そもそもただの学生が世界のことなんて、考えるはずもない。
「じゃあ、質問を変えるわ。私のこと、どう思う?」
思いもよらない質問に、忠則は驚いてしまった。初対面に近い少女を、どんな風に思っているかなんてそれこそ答えようがない。ただの印象でならば、かわいいほうだと忠則は答えられるが、それはどこか気恥ずかしさがある。
「あー」
思わず後ろ髪を掻いてしまう忠則。印象で答えてもいいのか、それとも違う要素を含めて回答したほうがいいのか。いろいろと考えていると、一つの声が二人に放たれた。
「面白いことをしているわね」
顔を向けると、レメリーが微笑んで近づいてきている。忠則は困ったような顔をして自分よりも小柄な少女に、助けを求めた。
「なあ、俺はどう答えればいい?」
「そうね。正直に言えばいいと思うわ」
「あのな、それができないから困っているんだぞ?」
「あら、どうして困っているのかしら?」
レメリーはイジワルそうに笑みを浮かべた。どこか楽しんでいるようなそれは、とてもじゃないが心地いいものではない。
「あなたは、自分と向き合えないのかしら?」
「あのな、俺は――」
「もしかして、目の前にあるそれを、何かと勘違いしているの?」
忠則は顔を向ける。すると碧は、怪しく微笑みを浮かべた。瞬間世界は赤黒く変化してしまう。忠則は思わず立ち上がった。そして、碧と思っていた存在に言葉をぶつける。
「お前、誰だ?」
それは、正直に答える。
『朱』
朱は、忠則の後ろに立って答えた。あまりにも刹那的なできごとに、忠則の身体は追いつかない。振り向こうとするが、その瞬間に朱は忠則の背中に抱きついた。
『お前は我のもの』
飲み込まれていく身体。赤黒い闇から逃れようとするが、忠則はどうすることもできない。
「忠則。時間をかけてでも、自分と向き合いなさい。そうすれば、あなたは運命を打ち破ることができる」
レメリーの言葉。それを聞きながら、忠則は朱に飲み込まれていった。
深い闇が、忠則の世界を支配する。どうしてこんな世界に引きずり込まれたのかわからない。しかし、異常に寂しいということだけはわかった。どうして自分はこんな所にいるのか。問いかけたいが、答えてくれそうな存在はいない。
『お前は一人。永遠に一人』
強烈な眠気に襲われる忠則。このまま静かに眠ってしまおう、と考え始めてしまう。だがそれを許さない存在がいた。
忠則の手に、温かな感触が現れた。思わず目を開くと、そこには白く輝く碧の姿が存在する。
『負けちゃだめ』
碧は優しく忠則を抱き締めた。そして、世界を温かな白い光で染めていく。
忠則は、そんな夢を見て朝を向かえた。