キャグニャ姫
こんにちは。コハフジカです。
最後にため息をついてしまうような話ですが、最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
姫は美しかった。いや、そうだとばかり思いこんでいたのだ。
姫を見つけた光彦という高校三年生になったばかりの少年は、祖父の家がある、田舎に来ていた。そこの林で光る竹を見つけたのだ。光彦はもともと「かぐや姫」という話を知っていたから、光る竹は何かあると思いこんでいた。
光彦は、祖父を呼んできてカマを手にした。姫を切ってしまうといけないから、できるだけ上の方をスパンと切った。瞬く間に光りは大きくなって、あたりが金色になった。しかし、竹の中には人はいない。あたりまえだ。もしも、ここににょきりと生えている竹が、光っていたとする。カマは手元にある。スパンと切る。そしてら人が、しかも超可愛らしい!!なんてありえるわけないだろう。世の中にはできることとできないことがあるのだよ、ワトソン君。
しかし光彦は諦め無かった。自分がきった竹を奥まで見てみた。じいっと、祖父は光彦がなにをしているのか全く分からないから、ぽけーっと側に立っていたが、光彦の行動がまか不思議なので、先に家に帰ることにした。
「……居た」
光彦はつぶやいた。居たと確かに言ったのだ。光彦はぐっと奥に手をつっこんで、その「居た」の正体を手にとった。それはそれは手に乗るほどの小さな姫だったのだ。顔は、目を瞑っていてよく分からなかったが、小さな口。大きな鼻。とても可愛いとはいえない顔をしている。そこで、光彦は、かぐや姫をもじって、「キャグニャ姫」と名付けた。キャグニャというのは、光彦がはまっている学園RPGのヒロインがよく使う言葉である。訳は、そこそこ可愛いである。キャグニャとそこそこ可愛いがどうつながるのか訊きたい。しかし、相手はRPGの中の架空の人物のため、それはご勘弁願いたい。
「かわいくねえな」
素直な発言だった。家に持ち帰ろうか…悩んだ。
「お持ち帰りにしますか?それとも此処でお召し上がりになりますか?」
マックの店員を想像するが、萌えない。実際想像した店員は、中年のおばちゃんだ。これで萌える奴は常時萌えているのである。もうお気づきかと思われるが、光彦はヲタクである。しかし、にちゃんねるなどというネット関係のものには疎い。ただ、秋葉原に行っては「萌え」と嘆くだけである。
「まあ、いいか、持って帰ろう」
本当に独り言の多い奴である。とてつもなくむなしい。
家に持ち帰って、祖父に見せると、
「それは金魚か?」
と、真顔で訊かれた。人間を金魚に見間違えるとは。相当な大人である。そういえば、祖父は老眼だった。今は老眼鏡を付けていない。ぼやけていて、人間様を金魚に見間違えたようだ。だからって金魚って…
「キャグニャ姫って言うんだ。うちで育ててもいいだろ?」
「かまわんけど…うちに水槽はないぞ」
「金魚じゃないって」
「ありゃ…」
キャグニャ姫は日に日に成長していった。一ヶ月もたつと、身長182cmという、光彦よりも5cmも背が高い。勿論、こんな巨大でおちょぼ口で鼻のでかい女は萌えない。それでも「姫」なのだ。かぐや姫みたいに婿にしてくれという男はこないし、月の迎えもないようだ。寂しい奴だなあと光彦がつぶやくと、キャグニャ姫は「みっくんが居てくれたらいーの」と言った。もちろん萌え系ヒロインが言えば、そうとう萌えるのだが、巨大ブサイクがそれを言ってもうざいだけである。それにみっくん…。正直光彦はキャグニャ姫の扱いに困っていた。そろそろ開放してほしい。家族はキャグニャ姫をみて開いた口が閉じれなくなってしまった。しょうがないから、自分の部屋においているのだが、こうもでかいとジャマでならなかった。
「キャグニャ姫よう、そろそろ此処をでてくんねえかな?」
「みっくんはあたしが嫌いなの?」
「いや…そういう訳じゃねえけどよ」
「じゃあ良いじゃないか!」
良くねえんだよ。
キャグニャ姫は光彦に惚れていた。光彦の愛している萌え系アイドルに嫉妬するくらい惚れていた。光彦の愛している萌え系アイドルのポスターを何枚か破ったこともある。これこそ、ヲタクの敵。光彦はあきれていた。もう、こんな姫、いりません。
「キャグニャ姫、やっぱり自立しねえと」
「んーあたし、働くのっていやなのよ」
「くってけねえよ、死んじゃうよ」
「みっくんが働いてよ」
「ふざけんな」
その五日後、キャグニャ姫は太陽の迎えに吐いていった。案の定、光彦の家は燃えた。