かすかにタバコの匂いがした
施設の部屋に飛び込んだ俺と美空は、がっしりとした大きな腕に抱きとめられた。
かすかにタバコの匂いがした。
体育の落合先生だった。
落合先生は、たしか三十代なかばの体育教師で、剣道部の顧問も務めていた。
生徒にはあまり人気がない。めちゃくちゃ厳しい先生だったからだ。
学校だったら、落合先生が廊下の向こうからやってきただけで、身体が勝手に緊張するレベルだ。
だが、そのときだけは、落合先生がいてくれて、死ぬほど嬉しかった。
こんなとき、これほど頼りがいがある人を、俺はほかに知らない。
「先生!」
美空が、さっと俺からはなれて、落合先生に抱きついた。
ゲゲッ!
美空は、
「中出先生が…。中出先生が…」
と、泣きながらつぶやいている。
担任の中出先生は、さっき、俺たちの目の前で、竜の炎に焼かれた。
落合先生は、美空を優しく撫でながら、
「無事でよかった」
と言った。
落合先生は、ボロボロに破れたシャツの袖をまくりあげ、髪や顔は竜に焼かれたのか、あちこちが焦げていたが、全身からワイルドな雰囲気を漂わせている。
そして、木刀を握りしめていた。
さすが、落合。
修学旅行にまで木刀もってきてるよ…。
俺は、少し落ち着いて、部屋の中を見回してみた。
そこには、落合のほかに、もう一人、大人がいた。
保健室の高田先生だった。