暗闇で、手を握る
上のフロアからの悲鳴…。
というより、それはもう絶叫だった。
絶叫マシーンって言葉があるけど、あれは叫び声に、楽しい気分も混じっている。
でも、そのときの声は、誰かがほんとうに恐怖を感じていることを伝える叫びだった。
上のフロアで、なにかとんでもなく恐ろしいことが起きているのだ。
しかし俺は、背中にしがみついてきた美空莉緒の体温を感じて、恐怖の中にも、ちょっとだけ嬉しい気分も感じていた。
なにしろ、女の子に頼られるのなんて、生まれて初めてかもしれない。しかも、相手は学園ナンバーワン美少女・美空莉緒だ。
俺は、身体の中から、なんだか不思議なパワーが湧いてくるのを感じた。もしかしたら、これが男子力というやつかもしれない。
「な、なに? いまの叫び声?」
美空が、震えながら聞いてきた。
「わからない。その前に、なんか割れるような音もしたよね。誰か怪我したのかも…」
「上のフロアって、先生たちしかいないんだよね。ってことは、あれは先生の誰かなの?」
もし、教師たちの誰かの叫びだとしたら、大人にあんな声を出させるなんて、いったい何が起きたというのだろう?
「とにかく、行ってみよう」
俺は美空の手をとって、階段を上がりはじめた。
ふだんの俺ならば、怖くてとっくに引き返していたはずだ。
まして、こんなに自然に女の子の手をてるなんて、絶対ムリだ。
しかし、そのときの俺は、停電の中で美空と二人でいたことで、妙にテンションが上がっていた。
彼女と手をつないでいけるなら、たとえどんなところでも、俺はためらわずに行ったに違いない。
俺たちは、上のフロアに着いた。
もちろん、そこも真っ暗に停電している。
誰かの気配はない。
と、思った瞬間、
廊下の向こうから、再びガラスが割れる音が響いた。
続いて、誰かの怒鳴り声。
暗闇で、俺の手を握る美空の手に力が入った。
俺も、強く握り返す。
確かに、何かがこのフロアで起こっているらしい。
そのとき、廊下の先から誰かがやってくる気配がした。