一緒にいかない…?
クラスでいちばんの美少女、美空莉緒は制服をきちんと着ていた。
なぜ?
修学旅行の宿で、こんな時間に制服?
俺は少々疑問に思ったが、クラスでいちばんの美少女と二人だけで面と向かい合っている緊張感に、頭がぼーっとなって、そんなことを尋ねる余裕はなかった。
美空は、かなりおびえているようだ。
「ねえ、停電なの?」
と彼女はいきなり尋ねてきた。
「え? あ…ああ。うん、停電みたいだよ」
と俺は答えた。
そのままじゃないか。
ちょっとカッコわるい…。
でも、美空は、少し安心したみたいで、
「そっか。そうだよね。わたし、家の用事で修学旅行に遅れちゃって、いまこのホテルに着いたところだったの。それで、部屋もわからないから、先生たちのところに行く途中だったの。そしたら、急に灯りが消えたから…」
なるほどー。
だから、一人だけ制服なのか。
俺は一人納得した。
美空は、
「いまはみんな、部屋にいる時間だよね。新久保くんは、どうしてここに?」
「あー。あの、僕もいま、先生たちのところに様子を聞きに行くところなんだ。その…み、みんなを代表して…」
と、俺は咄嗟に嘘をついた。
そして、思い切って、言ってみた。
「その…、だから、よかったら美空さんも一緒にいかない…?」
俺がそう聞くと、美空莉緒は安心したようだ。
「よかった! わたしの携帯、電池が切れちゃってて。ちょうど困ってたとこだったの」
美空は、クラスでも目立たない俺が、みんなを代表して先生のとこへ行くという嘘には気づかないようだ。まあ、状況が状況だから、そんな細かいことを考える余裕はないのだろう。
なにはともあれ、
俺は美空莉緒と二人で、真っ暗闇の廊下を歩きはじめた。
なんてラッキーなんだ!
停電サイコーだな!
ついさっきまで、寒い廊下で見張りをさせられ、最低の修学旅行だと思っていたのに、今はクラスでいちばんの美少女と、ちょっとした探検気分だ。
俺たちは階段のところまで来ると、上を見た。
教師たちがいるはずの上のフロアも、どうやら明かりは消えているようだ。
階段の上は、真っ暗だった。
見知らぬホテルの真っ暗な階段は、正直、気味が悪い。
「この上に先生たちがいるはずだよ」
と俺は美空に言った。彼女も、無言でうなずく。
俺たちは黙って階段を上がりはじめた。
すると、上のフロアから、激しくガラスが割れた音が響き、すぐに続いて、人の叫び声が聞こえてきた。
「うわあぁぁぁぁ!」
思わず足をとめる。
後ろを歩いていた美空莉緒が、俺の背中にしがみついてきた。
心臓が、やばいくらいドキドキ高鳴った。