ロビーにいた、ちょっとおかしな人
「わたし、知ってるかも…」
美空さんの言葉に、こんどは俺がびっくりした。
「知ってるって? イスマが召喚せし者を知ってるの? な、なんで美空さんが⁉︎」
「いや、知ってるっていうか…。もしかしたら、だけど…。わたし、見たかもしれない」
「見たって、イスマが召喚せし者を?」
「いや…。わかんないんだけど…。いま思えば…」
美空さんは、なんだか自信なさげだったが、話しているうちにだんだん自信がついたのか、次第に声がしっかりしてきた。
「わたし、みんなより遅れて、修学旅行に参加したって言ったでしょう?」
そうだった。美空さんは、家の事情で修学旅行に遅れて、夜になってこの宿泊施設に到着したのだ。
そして、先生たちに会うために四階に向かう途中、停電に遭遇し、困っているときに、俺に会ったのだった。
なんか、もう何日も前のことのようだ…。
担任の中井出先生が、竜の火に焼かれるのを見たり、剣道部の落合先生が鋼鉄の騎士に刺し殺されたり、その騎士に「俺がイスマだ!」と嘘を言ってだましたり…。
本当にいろんなことがあった…。
でも、あれから、まだ一時間くらいしか経っていないはず…。
「そのとき、わたし見たの。このホテルのロビーで、ちょっとおかしなことをしている人を…」
「ちょっとおかしなこと?」
「その人は、ロビーの床に、チョークみたいなもので、不思議な模様を描いていたわ。
わたし、落書きしているのかと思って、びっくりしたの。
でも、その人が模様を描き終えて、杖で床を叩いた瞬間、急に外で何かが光ったの…。
その直後だったわ。館内の電気が全部消えたのは…」
なんということだ。
美空さんが見たのは、間違いない。
「魔導師だ‼︎」
俺は叫んだ。
「そいつが、俺たちを、こんな世界に連れてきたんだ!」
「わたしも、そう思う。そのときは、何がなんだかわからなかったけど、今思えば、おかしなフードとかかぶって、ちょっと魔法使いっぽいかっこうしていたし、あの子…」
「あの子?」
「ええ。その子、まだ小学生くらいの女の子だったの」
ええっ⁉︎