新久保(あらくぼ)さんは、帝国をなめすぎです!
「じつは、この近くにおまえを誘拐しようとしてる連中がいるんだ」
俺は、思い切って、皇帝・岳彦に教えた。
しかし、岳彦は涼しい顔で、
「ああ、やっぱり!」
と言った。
「やっぱり? 知ってたの?」
「抵抗軍の人たちですよね? たしか…イスマさん? 彼女たちの部隊が、このドリム城方面に向かったらしい、という報告は受けていました」
「そうなんだ⁉︎」
「ええ。抵抗軍には、帝国のスパイが、けっこう潜り込んでいますので。かなり情報は伝わるんですよ」
「……ま、まさか⁉︎」
「ん?」
「まさか…おまえ…最初からすべてを知ってて、イスマたちを捕まえようとして、一芝居うってるなんてことは…?」
「ええっ⁉︎ そんな発想します⁉︎」
「違うの?」
「違います‼︎ 僕、もとの世界に帰りたいんですよ! 新久保さんたちは、違うんですか⁉︎」
「いや、それはもちろん帰りたい」
「でしょう! なんで、それをわざわざ…もう‼︎」
さすがに岳彦は、ちょっと怒ったようだった。
「ご、ごめんごめん。あんまりなんでも知ってるから、つい…」
「新久保さんは、帝国をなめすぎです! ちなみに、イスマさんたちのことは、あのラインハルトも知ってますから。たぶん、ぼくよりも詳しく」
「あいつも?」
「抵抗軍にスパイを送り込んでいる張本人ですからね。もっとも、そのスパイのおかげで、どうやら抵抗軍が、異界から来た人たちと遭遇したらしい、ということがわかったんです。それでぼくは、急遽このドリム城に来たんですよ」
「そ、そうだったのか…」
俺は、あらためて、この世界での帝国の力の大きさを実感していた。
そして、その頂点に君臨していた岳彦は、やっぱり只者ではないのだった。