ものすごく頭のキレる人物
地下牢への入口には、護衛隊の兵士が立っていた。
「あれでは、見つからずに入ることはムリだ」
俺と岳彦は、庭園の木立に隠れて、立ち尽くしていた。
「皇帝として、あいつらに命令したら?」
しばらく考えて、俺は岳彦に尋ねた。
「そうすれば、彼らは通してくれるでしょうが、同時にレオンハルトにも、ぼくたちが庭から出たことが伝わります。地下牢から脱出しにくくなると思います」
「絶対に秘密にするように命令するのは?」
「ふむ…」
岳彦は、しばらく考えていたが、
「やはり、ダメでしょう。護衛隊は、庭園を取り囲むように配置されています。あのへんの数人だけ口どめしても、たぶん無意味でしょう」
「たしかに…。たとえ、見える範囲のやつ全員を集めて命令しても、そんな大掛かりなことしてたら、それはそれでバレそうだしな」
「ええ」
「そう考えると、あのラインハルトってやつは、案外抜け目がないんだな…」
俺は、もしかして、ドリアムの言っていた『皇帝を背後から操る黒幕』がラインハルトではないかと思ったが、岳彦は、
「彼はものすごく頭のキレる人物です」
とだけ言った。
一瞬、俺は、いま『黒幕』について聞いてしまおうかと思ったが、やはり話が簡単には済みそうもない。
それよりも、先に岳彦に話しておくべきことがあった。
俺は、岳彦の顔を見て、言った。
「じつは、この近くに、おまえを誘拐しようとしている連中がいるんだ」