俺より冷静だ
「君って…俺たちと同じ世界から来たんだよね?」
俺がそう問いかけると、皇帝はほとんど泣きそうな顔で答えた。
「ええ! そうです! そうですとも‼︎」
その表情は、どう見てもふつうの中学生に戻っていた。
俺は、すぐには言葉が出てこなかった。
俺たちは、修学旅行中だったので、学年全員でこの世界に来た。
いまはバラバラになったとはいえ、それでも、俺には美空さんも、高田先生も、横山や稲田もいる。
だが、この少年は…
たった一人で、この世界にやって来て、一人で生き抜いてきたのだ。
これまでの苦労を思うと、俺のほうも泣きそうだった。
「な、名前は…? 名前は…なんて言うの? あるんでしょう? 俺たちの世界の名前が!」
俺がそう尋ねると、少年は、なんとも感慨深いという顔をした。
しばらく沈黙したあと…
「岳彦です。ぼく、飯田岳彦といいます。この世界に来て、自分の名前を言ったのは、二回目です」
「もしかして、一回目に名前を教えた相手というのは…」
俺は、ドリアムが話していた黒幕のことを思い出し、あわてて聞いた。
だが、少年は、
「詳しい話は、あとにしましょう! 今は、この城から脱出することが先決です」
と言った。
さすがは、この世界で皇帝にまでなっただけのことはある。
まだ中学生なのに、俺より冷静だ。