皇帝は泣きそうな顔
「急ぎましょう! この城を出るのです‼︎」
皇帝が、俺に向かって言った。
俺は、状況がまったく掴めず、思わず、
「は?」
と尋ねてしまった。
しかし皇帝は、困惑している俺のことなどほとんどおかまいなしに、すばやく行動していた。
皇帝の呪文で突然倒れたサーシャを、庭園の茂みに隠す。
「死んだわけではありません。眠ってもらっただけです。彼女がいたら、事情を説明するだけで二晩かかってしまう」
そう言いながらも、皇帝はあたりに注意を払っているようだった。
「よかった。レオンハルトの部下の護衛隊には、見つからなかったようだ」
俺は、呆然と立ち尽くしていた。
食事のとき、オシかと思うほどに話さなかった皇帝が、こんなにも饒舌に喋りまくることにびっくりしていた。
いま、目の前で焦っている少年は、どう見ても中学生だ。
つまり、ドリアムは、正しかったのだ。
俺は、思い切って、皇帝に話しかけるのではなく、自分と同じ世界の少年に話かけるつもりで、言った。
「きみって…俺たちと同じ世界から…日本から来たんだね?」
「ええ! そうです! そうですとも‼︎」
皇帝は、ほとんど泣きそうな顔で答えた。