皇帝が口をひらいた
法王は、皇帝と同じく、まったく喋らなかった。
二人とも、あまりにも話さないので、そもそも、なにをしにこの城にやって来たのか? そこからして、俺にはわからなかった。
ドリアムは、皇帝が、俺たちと同じ世界から来たのかもしれない、と言った。そして、同じ世界から来た俺を見れば、なにかの反応を示すはずだと言った。
だが、皇帝はなんの反応も示さなかった。
これは、皇帝が俺たちと同じ世界から来た、というドリアムの仮説が間違っていた、ということを意味しているのではないたわろうか?
もし、ドリアムの仮説が間違っているのならば、法王が、皇帝を背後から操っている、という疑惑も、無意味なものになる。
俺は、一言も喋らず、黙々と食事をとり続ける二人を見て、そんなことを考えていた。
が、ふいに皇帝が口をひらいた。
「今日は、大変興味深い食事会を、ありがとう、ドリアム」
その皇帝の言葉は、あまりにも唐突だったので、一瞬にして食卓はもとより、大食堂のホール全体が静まりかえった。
いつも余裕をたたえたドリアムでさえも、目を見開いて驚いている。
しかし、皇帝は、周囲のそんな反応にまったくかまわず、自分のペースで話し続けた。
「朕は、自分と同じくらいの年頃の者と会うことが少ない。まして、ともに食事をとることなと、皆無だ。だから、こうして同じテーブルに、二人も同じ年頃の者がいて、ともに食事がとれたことは、非常にうれしい気持ちだ」
「そのような御言葉、恐悦至極にございます」
ドリアムが低頭した。
「いやいや、朕の本音だ、ドリアムよ。ついては、せっかくなので、おまえの娘と、そちらの学者を、もう少しばかり朕に貸してくれぬか? 少し語り合いたいのだ」
もう一本、小説を書き始めました。
『修学旅行に行ったらヘタレな俺がなぜか幕末のサムライに⁉︎』という小説です。
もしよければ、そちらもご一読ください。