テーブルについた皇帝
「来たわ」
サーシャが囁いた。
大食堂の入口付近が、急に騒がしくなった。
大勢の人が動いている気配が伝わってきた。
見ると、入口のところに、護衛隊らしい兵士の顔が見えた。
鎧こそつけていないが、帯剣して、鎖かたびらのような防具をつけている。
そんな格好の兵士が数人、大食堂に入ってきた。
あのサーシャに声をかけてきた男の顔も見えた。
しかし、いまは任務中だからか、サーシャには目もくれない。
男たちは、鋭い眼光で食道内を見渡していたが、しばらくすると出て行った。
俺は、護衛隊にまたなにか言われるのかと思って身構えていたが、完全に無視されたようだ。
護衛隊の男たちは、そのまま廊下に整列したようだ。
おいおい…。
あんなやつらが廊下にいるのに、いったいどうやって皇帝を庭に連れ出せっていうんだよ?
俺はあらためて、横山に言われたミッションの難しさに頭を抱えたくなった。
が、そのとき、
またサーシャが囁いた。
「皇帝よ」
皇帝の一団が、大食堂に入ってきたのだ。
先頭を、皇帝らしい小柄な人が歩いていた。
その後ろにドリアムが従っている。
さらに、ドリアムの後ろには、青白い顔をした痩せて背の高い男がいた。
皇帝は、ゆっくりと歩いて、こちらに近づいてきた。
そして、大食堂の真ん中に置かれた小さなテーブルについた。
俺のはす向かいの席だ。
その顔を見て、俺は心の底から驚いた。
皇帝は、まだあどけなさの残る、12才くらいの少年だった。