生き残り
女子だらけのバリケードの中で、俺が戸惑っていると、
「お前ら、四階から来たのか?」
俺に話しかけてきたのは、クラス委員の稲田だった。
俺たちを、バリケードの中に引っ張りこんでくれた奴だ。
「ああ…。四階から逃げてきた」
「頼む。四階の様子を教えてくれ。先生たちは、どこにいるんだ?」
稲田は、弓道部の主将で、いつもおそろしく冷静で、決して焦らないことで知られていた。一部の女子からは、そのクールさがウケて、かなりのファンがいると聞いたことがある。
その稲田も、さすがに焦っているようだった。
「先生たちは…」
俺は、落合先生の上半身を思い出して、言葉につまった。
はたして、ここですべてを話していいものか…。
わからなかった。
「生き残っているのは、ここにいる私たちだけよ!」
そのとき、高田先生がやってきて、会話に加わった。
先生は、少し気持ちが落ち着いたようで、今は年上らしい冷静さを取り戻していた。
「上のフロアにもう先生方は残っていないわ。私たちは、この新久保くんの機転で助かったの」
あれ?
もしかして俺、ほめられている?
なにしろ、俺は人にほめられなれてない。
しかも、高田先生は、二十代前半の美人だ。
「まだきちんとお礼を言ってなかったわね。ありがとう。新久保くん」
そう言って、高田先生は俺の手を取った。
俺の頭は、完全にしびれてしまった。
絶対に、この人を守るぞ!
俺は密かに、心に誓った。
向こうのほうで、美空がなぜか怒ったような顔で、こちらを見ていた。