ライバルの息子
「お、俺は…」
口ごもった俺を見て、皇帝の護衛官というイケメン騎士は、露骨に不審げな表情になった。
「なんだ貴様、自分が仕えている家の名も言えないのか?」
「俺は…」
俺が言いよどんだとき…
「この人は、学者よ!」
横から、サーシャが助け舟をだしてくれた。
「お父様が城にお招きした学者なの」
「学者だと…」
「あ、ああ。学者というか、学生なんだ。勉強中の身だ…」
とりあえず、俺はそう答えた。
嘘はついていない…。
「ねえ、もうほんとに行かなくちゃ。遅刻はできないわ。それとも、皇帝様に、レイノルズに捕まったせいで遅れましたって言う?」
サーシャがそう言うと、騎士はしぶしぶ道をあけた。
「サーシャ。晩餐会のあとに、舞踏会がある。そのとき、また会おう」
「気が向いたらね」
サーシャはそう言うと、俺の手を引っ張って、大またで歩き出した。
角を曲がって、騎士の姿が見えなくなったところで、サーシャは思い切りため息をついた。
「はあぁーーー…」
どっと、疲れている様子だ。
「あ、あの…。さっきの騎士、知り合い?」
俺は尋ねた。
「レイノルズは、皇帝直属の護衛隊の一員なの。一年ほど前に、首都のパーティで会って、それ以来、わたしにベタベタしてくるわ…」
「そんなエリートなら、そこまで嫌わなくても…」
「嫌いよ、あんなやつ。わたしを通じて、この城の情報を探ろうとしているんだわ」
「情報?」
「あいつは、お父様のライバル、レオンハルト公の息子なの」