とんでもない間違い
いよいよ、皇帝があと一時間ほどで城に到着するという知らせがきた。
俺は、ピカピカにクリーニングされた服を着て、サーシャとともに、ドリアムの待つホールに向かっていた。
サーシャは、あいかわらず、一言も口をきかない。
さっき浴室でのサーシャの言動に、いいかげんうんざりしていた俺は、ホールまでのあいだに、サーシャの誤解をといておきたい、と思った。
「あのなぁ、さっきの『覗き』っのは、完全に誤解なんだぞ」
俺は、サーシャの背中に話しかけた。
サーシャは、振り返りもしないで、冷たく返す。
「男のくせに言い訳とは、どこまでも下衆なやつ!」
「だから! おまえが誤解してるからだよ。あれは、おまえが風呂からぜんぜん出てこないから、しかたなく風呂場に様子を見に行ったの!」
「それを覗きと言うのだ‼︎」
「あのまま眠り込んでたら、溺れ死んでたかもしれないんだぞ! だいたい、いい年して、ガキじゃあるまいし、風呂で寝るなっつーんだよ」
この言葉に、サーシャはくるりと振り向いた。
その顔は真っ赤で、唇はわなわなと震えていて、よく見ると、目もうるんでいる。
あれ?
泣いてる?
俺は、自分がとんでもない間違いをしでかしたことに、ようやく気づいた…。