タオルを腰に巻くという概念
お風呂から引き出され、メイドたちに身体中を洗われた俺は、こんどは脱衣所に裸で立たされた。
前を隠すタオルの一つも与えてくれない…。
サーシャは、隣の私室に引っ込んでしまった。
メイドたちは、なんだかわからないが浴室とサーシャの部屋をあわただしく行ったり来たりしている。
文字通り右往左往という感じだ。
誰も俺に関心を払っているわけではないが、だからといって、全員年頃のメイドさんたちに全裸で囲まれている、というのは落ち着かない。
俺は、心細くも手で前だけを隠して、
「あ、あの〜…」
とメイドの一人に声をかけた。
「は、はい?」
よく見ると、さっき俺とパンツの引っ張り合いになった、かわいいメイドだった。
彼女のほうでも、恥ずかしかったらしく、顔を赤らめながら立ちどまってくれた。
「あ…え〜と…その…タオルかなにかを…貸してもらえないですか?」
俺がそう言うと、彼女は目のやり場に困るという感じで、どこか関係ない方を見ながら答えた。
「いま、ご主人さまのお召し物を綺麗に修繕しているところでございます。もうしばらくお待ちくださいませ」
「いや、だから…それまでのあいだタオルを…」
「まだお濡れになっている場所がございましたか? もしそうなら、わたしがお拭きいたしますが?」
「いや…そうじゃなくて…」
どうやら、彼女たちにはタオルを腰に巻く、という概念がないらしい。
俺は、なんとかゼスチャーだけで、タオルを腰に巻く、ということを伝えようとしたが、なにしろ片手しか使えないので、いっこうに伝わらない。
そんな虚しい努力を続けていたら、いきなりサーシャの声が背後から響いた。
「皇帝が、あと一時間で到着されるとの伝令が着いた。おまえ、いつまで裸でいるつもりだ⁉︎ さっさと服を着ろ!」