少年の礼
「我々が出した食事を食べ終えた、あの方は、お礼がしたい、とおっしゃった」
ドリアムは、遠い目をしていた。五年前の、皇帝との出会いの日を、ありありと思い出しているようだった。
俺は、言葉をはさむこともできず、ただ驚きとともに、ドリアムの話を聞いていた。
「お礼がしたい、と言ったあの方は、私たちのアジトを出た。そのとき、私たちは、ウインガーレイの討伐隊に追われ、山の中に隠れ潜んでいた。
あの方は、眼下を見下ろす頂きに立たれた。そこからは、討伐隊が、いままさに山を登り、こちらに迫っているのが見えた。その数は、約五百。こちらの十倍以上だ。
だが、あの方は、ひとつも恐れることなく、なにか短い呪文を唱えられた。
次の瞬間、信じられないほど巨大な雷撃が、討伐隊に降り注いだ。
それが、私があの方の魔法を初めて見た瞬間だった…」
ドリアムは、言葉を切って、俺を見た。
その目は、真剣だった。
「私は、あの方がどこからやって来たのか、ずっと不思議だった。あれほどの力をお持ちなのに、あの方の噂は、この世界のどこでも聞いたことはなかった。実際、あの方は、『こちらの世界』に来たばかりだったのだ」