黒い服の少年
「私と皇帝との出会いは、五年前のことだ。その当時、私はこの地方の山岳地帯で、山賊のような稼業をしていた…」
「山賊のような稼業?」
「いや…山賊そのものだな。私は、この地方の旧領主、あのウインガーレイから、お尋ね者として手配されていた身だったよ。
ウインガーレイの軍とは、なんども戦い、私は追い詰められていた。なにしろ、当時の私の手下は、四十人くらいだ。ウインガーレイの軍は、一万人いた。強国だったからな、ここは」
ドリアムは、周囲に誰もいないせいか、いつもの迫力がなかった。
なんだか、疲れているようにさえ見えた。
「その日も、ウィンガーレイの討伐隊に追われ、私たちは絶体絶命だった。私は討ち死でもかまわなかったが、サーシャはなんとか生き延びさせてやりたかった。そんな私たちのまえに、あの方が現れたのだ。
あの方は、道に迷ったような、どこか戸惑ったような顔で、森の中から、ひょいと我々の前に現れた。まだ幼さの残る、少年と言ってもよい年格好だった。
その少年は、不思議な服を身にまとっていたな。おまえたちと同じではないが、どこか似たようなところのある衣装だ。動きやすいそうな、真っ黒な服だった」
真っ黒な服を着た少年?
まさか…学生服だろうか?
皇帝という言葉から、勝手に老人を想像していたが、皇帝は少年なのだろうか?
「あの方は、ひどく空腹だったらしく、我々に食べ物がほしいとおっしゃられた。なぜ、あのとき、あの少年に食べ物を分け与えたのか…? 我々も追われている状況で、決して余裕はなかったはずなのだが…。
ともかく、我々はあの方に食事を出した。あの方はそれを食べ終えると、我々に、お礼がしたい、と言われたのだ」