光臨の剣
「イスマに召喚されし者は、俺だ!」
やけくそで答えたものの、俺はイスマがなんなのか、まるでわかっていなかった。
とにかく、なにか答えないと、殺されると思ったのだ。
「貴様が、イスマが召喚せし者だというのか?」
騎士は、そう言って、俺を正面から見た。
デカイ…。
鎧のせいもあって、身長二メートルは超すんじゃないか…。
こんなのに斬りつけられたら、ひとたまりもない。
だが、俺にはわかった。
こいつは、ほんの少しではあるが、ビビってやがるぞ…。
なにしろ、ビビることにかけては、俺はけっこう詳しいほうなのだ。
なぜかはわからないが、イスマが召喚せし者を、こいつは恐れているらしい。
「貴様が、真にイスマが召喚せし者ならば、光臨の剣は、どこにある?」
また、わけのわからないキーワードが出てきた。
だが、俺は少しずつ、理解しかけていた。
やっぱりここは、ファンタジーRPGの世界なんじゃないだろうか。
だとすれば、光臨の剣とは、たぶん、イスマが召喚せし者が持つ、強力な武器アイテムに違いない。
おそらく、こいつがさっき少しビビったのは、こちらが、光臨の剣を持っているかもしれない、と警戒したせいだろう。
もちろん、光臨の剣なんか持っちゃいないが…。
俺は、余裕たっぷり、に見えるように、全力で演技をしつつ、
ゆっくりと騎士の正面に立つと、
「これが、光臨の剣だ‼︎」
と叫んで、懐中電灯の光を騎士の顔にあてた。
騎士は、ぐぬっ!とうめいて、思わず後ずさった。
「今だ‼︎」
俺は、美空と高田先生に声をかけると、全力で階段をめざしてかけ出した。