生まれてはじめ、女の子にビンタされた
サーシャの部屋に戻ると、大きな天蓋付きのベッドが目に入った。
ふかふかの布団に、清潔そうな白いシーツがかけられていて、じつに寝心地が良さそうだ。
俺は、このままサーシャを、浴室の脱衣スペースに寝かせておくのは、可哀想な気がしてきた。
すぐ近くに、こんな快適なベッドがあるのに、脱衣所に放置って…。
良識としていかんだろ?
あくまで、良識として。
そんなわけなので、俺はまた浴室にとって
返した。
サーシャはまだ寝ていた。
俺は、
「良識…良識…良識…良識…」
と呪文のように唱えながら、サーシャの身体を抱き上げた。
サーシャは、思ったよりずっと軽くて、柔らかい…。
しかも、いい匂いがした…。
「良識…良識…」
そのまま、お姫様だっこの状態で、ベッドまで運ぶ。
ベッドに、彼女を寝かせた瞬間だった…。
「あんた、なにやってんのよ⁉︎」
突然、サーシャが目を覚ました。
「あ、あの…」
思わず、俺はうろたえてしまった。
サーシャは、あきらかに状況を誤解したらしく、怒りの光を瞳にたたえて、こちらを睨みつけている。
「ご、誤解だ…。君がお風呂で寝ちゃったから…」
だが、サーシャは、ぜんぜん聞いていなかった。
バチん!
生まれて初めて、俺は女の子にビンタされたのだ。