が、そのまえに…
「おまえには命を救ってもらった借りがあるからな。これくらいは、やらせてもらうぜ!」
カラスに変身した横山は、そう言って飛び去った。
横山のくせに、なにかカッコイイ。
もしかしたら、魔法が使えるようになったことで、自信がついたのかもしれない。正直、うらやましい…。
それはともかく、レジスタンス軍が、すぐ近くの山まできているという、やつの知らせは、俺にとってこれ以上ない、うれしいニュースだった。
もしかしたら、この城から脱出できるかもしれない…。
が、そのまえに…。
まずは、この部屋から脱出しなければ…。
俺は、おそるおそる隣の浴室とのあいだの扉を開いてみた。
そこには、脱衣スペースに続いて露天風呂があり、そのすみで、サーシャが風呂のふちにもたれかかったまま眠っていた。
サーシャは、全裸のようだった。
だが、風呂のお湯がきらめいているせいで、首から下はよく見えない。
彼女は、こっくりこっくりと、舟をこいでいた。
その表情は、あきらかにまだあどけなさの残る少女のものだった。
ど、どうしよう?
このまま、ここで起きるのを待てばいいのか?
それとも、逃げ出してしまおうか?
だが、逃げたところで、すぐ捕まることは目に見えている。
最悪、美空さんたちに迷惑がかかることもありえる。
サーシャは、横山の魔法がよほど効いているらしく、かなり深く眠っている。
舟をこぐ彼女の鼻が、いまにもお湯に浸かってしまいそうだ。
もし、彼女がここで溺れ死んだら、たぶん、いや絶対、俺はドリアムに殺されるだろう。
え〜い。とりあえず、起こすしかない!