借りがあるから
「美空や、高田先生は、まだ地下の牢屋に入れられてるんだな?」
横山は、急に真剣な顔になって、そう言った。
「あ、ああ! そうなんだ。厨房の裏の階段から地下に降りたところにある牢獄だ…」
俺は、横山に正確な場所を教えた。
「三人とも、魔法の鎖でつながれてる。もしかして、おまえの魔法なら…」
「いや、それは無理。俺、にわか魔法使いだからな。でも、様子は見に行ってくるわ。どういう状況か確認して、報告しなくちゃならないからな」
「報告?」
「ああ。じつは、イスマたちのレジスタンス軍は、もうこの城の隣の山まで来ている。俺は、偵察に来たってわけだ」
「ええっ‼︎ そ、そうだったのか⁉︎」
イスマたちが、そんなに近くまで来ていたとは…。
俺は驚いたけれども、同時に複雑な気持ちもわいた。
もし、それがもっと早くわかっていれば、ウインガーレイ候との脱獄も、違ったものになっていたのかも…。
そうすれば、候は死ななくても済んだのかも…。
そんな考えが、どうしても浮かんでしまうのだ。
横山は、俺のそんな考えを読み取ったように、
「ウインガーレイ候のことは、気にするな。それより、おまえはあのお姫様から、うまく逃げろ。間違っても手は出すなよ!」
そう横山は言うと、小さな木の枝を軽くふった。
また、ぶわあっという風が吹いて、思わず目をつぶってしまう。
そして、目をあけたときには、横山は再びカラスの姿になっていた。
「じゃあ、俺は行くわ」
「あ、ありがとう。命懸けで来てくれて…」
あわてて俺は礼を言った。
カラスになった横山は、
「おまえには、命を助けてもらった借りがあるからな。こんくらいは、やらせてもらうぜ」
そう言って、飛んでいった。