100倍驚いた
サーシャが浴室に行ってしまって、あとに残された俺が一人で煩悶していると、いきなりサーシャの部屋に入り込んできたカラスが、喋りだしたのだ。
「久しぶりだな、新久保」
最初、俺は驚きで声が出なかった。
すると、カラスはバタバタと翼をはばたかせた。
しばらくして、どうやら笑っているらしいとわかった。
「ぎゃはははは! あいかわらず、ぼんやりしたツラしてやがるな‼︎ 俺がわかんねえのかよ⁉︎」
俺がわかんねえか、と言われても、カラスに知り合いはいない…。
俺が、呆然としていると、カラスは棚の上から床に下りると、足で持っていた木の枝を、片足で持ち上げて数回振った。
ぶわぁ!
一瞬、カラスから風が吹いて、俺は思わず目をつぶった。
そして、目をあけると、そこには同じクラスの横山がいた。
「よ、横山⁉︎」
カラスが喋ったときの100倍驚いた。
なぜ横山がここに?
あのカラスはどこに行った?
いや、状況から考えたら、カラスが横山になったということなのか?
しかし、なぜ?
なぜカラスが横山に?
「ワッハッハ! な〜に間抜け顔で人をガン見してるんだよ、新久保‼︎ 俺だよ。横山さんが来てやったんだよ!」
横山は、そう言って俺の肩をバンバンと叩いた。
痛すぎるくらいの、その力強さは、まぎれもなく横山の叩き方だった。