完全な硬直
「あなた、前に出なさい」
地下牢に一人でやって来たサーシャは、俺を指さして、そう言った。
「お、俺…?」
俺がおずおずと前に出ようとすると、
「新久保くんを、どうするつもり?」
美空さんが、横からまた声をあげた。
しかし、サーシャはそれもまた完全に無視して、まっすぐに俺を見た。
「ここから出すわ。前に出て、鎖の鍵穴をこちらに向けて」
「ちょっと待って。新久保くんを処刑するつもりじゃないでしょうね?」
サーシャは、それもまた完全に無視した。
どうしようもないので、俺は前に進んで、足に付けられた鎖を格子のところに出した。
鎖が嫌な音をたてた。
サーシャが鎖を外すと、急に脚が軽くなった。
彼女は、格子の扉も開けてくれた。
だが、俺は牢獄からは出ず、中でぐずぐずしていた。
「どうしたの? 早く出なさい」
サーシャが、イライラして言った。
「ほ、ほかの三人を残して、俺だけ出るわけにはいかない」
するとサーシャは笑い出した。
「あなた、お父様が仰ったことを聞いてなかったの? わたしとあなたで、子どもをつくれと仰ったのよ。ほかの者に、用はないわ」
その言葉で、俺は完全に硬直してしまった。
いや、あくまで全身が、という意味だが…。