気まずい空気
地下牢に誰かが降りてくる足音が聞こえた。
その音がした瞬間、俺たちはピタリと話をやめた。
足音は、ゆっくり近づいてくる。
牢獄の格子ごしに顔を見せたのは、サーシャだった。
「あ…」
俺は、思わず声を出してしまった。
サーシャは、黙ってこちらを見つめている。
気まずい空気が、漂った。
サーシャの父親で、この城の城主・ドリアムが、俺とサーシャとで、子どもをつくれと命じたからだ。
俺が、とっさの出まかせで、光臨の剣を使うには異界者の血が必要、などと言ったのが原因だった。
俺とサーシャで子どもをつくれば、その子どもは光臨の剣を使える、つまり、ドリアム家が光臨の剣の力を手に入れることができる、というわけだった。
ほんとに、ドリアムというおっさんはとんでもないことを考えつく。
この城の城主ってことは、この世界の将軍みたいなものだから、きっとメンタリティがほとんど戦国武将なのだろう。
俺が、そんなことをぼんやり考えているあいだも、サーシャは黙っていた。
すると、沈黙に耐えかねたのか、美空さんが口をひらいた。
「いったい、なにしに来たの?」
いつも温和な美空さんが、いきなり攻撃的な口調だった。
だが、いまや虜囚の身の俺たちは、彼女を怒らせただけで処刑されるかもしれない…。
「み、美空さん…。いきなりそんな喧嘩ごしにならなくても…」
俺は、小声で美空さんに言った。
だが、彼女はますます大きな声を出した。
「なに言ってるの⁉︎ この人は、ウインガーレイ候のカタキなのよ?」
「いや、それはそうだけど…」
そんな俺たちのやりとりを完全に無視して、突然サーシャが口をひらいた。
「あなた、一歩前に出なさい。ほかの者は、牢獄の奥に下がりなさい」
「え、俺?」