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赤いカタマリ
俺たちは、廊下の反対側をめざして、全速力で走った。
後ろは、振り返らなかった。
あの鋼鉄の鎧と、巨大な剣に、木刀で勝てるわけがない。
頭では、わかっていた。
だけど…、
もしかしたら、落合先生なら…
剣道の達人の先生なら、勝てるんじゃないか?
そんなことを、ぼんやりと考えていた。
いや、俺は、そう思いたかっただけなのかもしれない。
先生を置き去りにして、逃げている自分を、正当化したかっただけかもしれない。
そんな俺の、はかない自己欺瞞は、一瞬ののちに、打ち砕かれた。
俺たちが走る目の前に、いきなり赤いカタマリが吹き飛んできたのだ。
胴体から一刀両断された、落合先生の血まみれの上半身だった。
「きゃあああああああ‼︎」
美空が、絶叫して、くずおれた。
ふりかえると、ゆっくりと剣をしまった騎士が、こちらに歩いてきていた。
またしても、俺たちは、凍りついた。
騎士は、悠然と、歩いてくる。
そして、おもむろに、騎士は口をひらいた。
「おぬしら、イスマが召喚せし者か?」
日本語だった。