俺たちの完敗
「すまぬ…」
ウインガーレイ候が、ぽつりとつぶやいた。
その瞬間、信じられないほどのスピードで、誰かの手が伸びてきて、候の身体を掴んだ。
あの護衛の女だった。
女は、候の身体を握ったまま、ドリアムの前まで進み、無言でひざまずいた。
そして、候を、ドリアムにかかげて差し出した。
候は、もはやなんの抵抗も見せず、むしろ堂々としていた。
このときには、どこに潜んでいたのか、いっせいに忍者のような女たちが殺到し、サーシャの身体から俺たちを引き剥がしていた。
女たちは、サーシャを取り巻くと服を着せ、俺たちも候と同じように、ドリアムのまえにかかげられた。
候が捕らわれた時点で、俺たちにはなすすべがなかった。
俺たちの完敗だった。
「ウインガーレイよ…」
と、ドリアムが言った。
その声には、なぜか親愛の情の響きさえあった。
「思えば、長い戦いだった…。おまえとの決着が、まさかこのような形でつこうとは…」
「ふん! 御託はよせ」
老人は、なおふてぶてしかった。
「わしを殺したとて、国を奪われた、この地の民の恨みは消えぬぞ。レジスタンス軍は、必ずきさまらの帝国をたおすだろう」
「ふふふ…。おまえの娘、イスマには、してやられたばかりだしな。そこの異界者どもの召喚の折にな」
「そうとも。イスマはよい指揮官になる。レジスタンスは安泰じゃ!」
「たしかに、あの魔女は手強い。我が娘、サーシャのよきライバルとなりそうだ」
ドリアムはうっすらと笑っていた。
二人の会話は、本当に昔馴染みの男たちが、互いの娘自慢をしている風で、親密さの空気さえ、そこにはあったのだ。
だが、そんな空気も、次の瞬間には消え去った。
「では、ウインガーレイよ。きさまを脱獄の罪で処刑する。現行犯だ。裁判はいるまい」