ドリアム侯爵の罠
「さっさと、わしを殺せばよかったではないか?」
ウインガーレイ候の問いかけに、ドリアムは薄笑いを返した。
「それができぬから、おまえは厄介な男だったのだ」
「なぜじゃ? なぜ殺せなかった?」
「この城も、この土地も、もとはといえばおまえの領地。私たち親子と、我が兵士たちは、おまえに勝利して、この城に入城した占領軍に過ぎん。この土地には、まだまだおまえを慕う領民が多い」
ドリアムは、竜の背からまっすぐにウインガーレイ候を見つめていた。
「いかに戦争に敗れたとはいえ、おまえを理由なく処刑すれば、この地の領民たちが反発するのは確実だった」
「だから、何年もわしを地下牢に繋いで放っておいたのか?」
「いかにも。おまえは本当に厄介だったのだよ、ウインガーレイ。たとえ、おまえが寿命で死んでも、領民たちは我らが殺したと騒いだことだろう。おまえは、牢獄にいながら、アンタッチャブルな存在だった」
「……」
「そやつら異界者が我が城に来るという知らせを受けたとき、だから、我々は一芝居打つことにした」
「芝居?」
「私は城への帰還を遅らせて、サーシャには異界者を客人としてもてなすように命じた。そうすれば、異界者が必ずおまえを牢獄から逃がすと考えてな」
「わしが脱獄するのを予想して、そう仕向けたというのか?」
「脱獄すれば、おまえは罪人だ。我々は、おまえを死刑にする正当な理由が手に入る。そして、サーシャは見事にやってのけたのだ!」