降り立った竜
「どうやら正念場のようじゃ」
ウインガーレイ侯が鋭く言った。
天井の裂け目から、巨大な竜がゆっくりと城内に入ってきた。
背には、漆黒の鎧をまとった騎士が乗っている。
その姿を見ただけで、俺の身体は勝手にガタガタと震えはじめていた。
なにしろ、あいつには二度も殺されかけたのだ。
それに、俺たちがこんなどこともわからない城に来て苦労しているのも、もとはと言えばあの騎士のかけた魔法のせいだ。
竜は、俺たちの正面に降り立った。
こちらが小人になっているせいか、竜の大きさは以前とは比べものにならない巨大さだった。
その竜の背から、ドリアムは無言で俺たちを見つめた。
目の前には、素っ裸のまま人質になって、五人の小人にとりつかれている娘がいる。
そのサーシャもまた、微動だにせず父を見つめた。
衛兵たちも、誰も声をたてなかった。
ただ竜の息遣いだけが、響く。
最初に静寂を破ったのは、ドリアムだった。
「やってくれたな、ウインガーレイ」
「おお。わしのことを覚えておったとは、ドリアムよ。まだ呆けてはいなかったようじゃな」
侯が負けじと言い返すも、迫力不足はいなめない。
「我が城に対する、この騒ぎ…。我が娘に対する、その仕打ち…。この私が、許すと思うか?」
ドリアムの言葉はとても静かだったが、そのぶん迫力があった。
「父上様!」
サーシャが、突然叫んだ。
「この失態、すべては留守をあずかる私が招いたこと。私は…」
「よいのだ、サーシャ。おまえは職務を全うした。我が城の兵士たちも、それは同様。だが、そこのウインガーレイの卑劣な策略によって、この混乱は生じているのであろう」
「かかか。卑劣でけっこう! わしらは、このとおり、おまえの娘を人質にとっておる。この娘に傷をつけたくなければ、さっさと道を開けるがよい」
「断る!」
ドリアムの声が響き渡った。
サーシャの身体が、一瞬硬くなるのがわかった。