どうやら正念場
突然、雷のような大音響が響き、城の天井が崩れた。
そして、崩れた天井の裂け目から、見覚えのある竜の姿が見えた。
竜の背中には漆黒の鞍が乗せられ、全身を黒い鎧で覆った騎士がまたがっていた。
気がつくと、俺の全身がガタガタとふるえはじめていた。
稲田も美空さんも高田先生も、同じくふるえていた。
間違いない。
シルバーメイルの騎士だ。
「ド、ドリアム侯爵様だ‼︎」
衛兵の誰かが叫んだ。
いきなり、廊下の空気が一変していた。
真の主が、ついに帰還したのだ。
「まずいの…」
ウインガーレイ侯が、小さく舌打ちした。
「正味のところ、あんたに危害を加えたくはなかったんじゃが…。やつが来たとなると、最悪の場合は…」
珍しく、ウインガーレイ侯が言いよどんだ。
なんだ?
最悪の場合は、どうなるっていうんだ?
気になる。
だが、そんなことを気にしている場合ではなかった。
竜が、さらなる巨大な雄叫びとともに、再び天井に体当たりをしたのだ。
地震のような強烈な揺れで、バラバラと天井の石が崩落した。
「きゃああ!」
衝撃で美空さんが、サーシャの身体から落ちそうになる。
「美空さん!」
俺はあわてて、彼女の身体に腕をまわして、抱き上げた。
「あ、ありがとう…」
「みな、油断するでないぞ。どうやら、正念場のようじゃ!」
侯が、鋭い声で言った。
大きく空いた天井の裂け目から、騎士を乗せた竜がゆっくりと入って来た。