衛兵どもに告ぐ!
ウインガーレイ侯は、剣を持ってニヤリと笑った。
「やつらに、人質とはなにか、あらためて教えてやるんじゃ!」
そう言うと、侯はサーシャの首から顔面に移動した。
そして、剣を逆手に持って、サーシャの瞳にあて、
「衛兵どもに告ぐ! すべての武器を捨てよ! さもなくば、この娘の眼球をえぐりとる‼︎」
と叫んだ。
つい先ほどまで、いまにも襲いかかってきそうな殺気に満ちていた廊下の衛兵たちは、静まりかえった。
サーシャだけが、微塵も動じることなく、叫ぶ。
「戦士たち! ウインガーレイの卑劣な企みに負けてはいけない。私は、この賊の命と引き換えなら、喜んで両目をさしだそう!」
緊迫した空気が城の廊下を包んだ。
侯は、本当にサーシャの眼球をえぐりとる気なのだろうか?
まさか…?
いや、あのじいさんなら、やるかもしれない。
ついさっきも、あらためて実感したばかりなのだ。
これが、戦争だということを。
「どうした? 武器を捨てないのか?」
侯は、静まりかえった衛兵たちに、再度尋ねた。
「しょうがないのぉ。でさ、とりあえず、この娘の片目をつぶさせてもらおうかの?」
「ま、待て!」
浴室でサーシャの護衛についていた女中が、叫んだ。
「みな、武器を捨てるんだ‼︎ サーシャ様のお身体に、万一のことがあってはならぬ!」
どうやら、あの護衛の女は、意外と身分の高い兵士だったようだ。
衛兵たちが、それぞれ武器を捨てはじめた。
ウインガーレイ侯が、ニヤリと笑う。
が、そのとき、雷のようや大音響が響き、突如、城の天井が崩れた。
そして、崩れた天井の裂け目から、一匹の巨大な竜の姿が見えた。
見覚えのある竜だった。